Letter from CAIRC
1997.12 Vol.1 No.1

集合住宅(アパート・マンション)でペットと快適に暮らすためには
(前編)

「人と動物との関係、ペットが人に果たす役割」が社会的にも注目されるなか、都市部でのコンパニオンアニマルと人との共生のありかたが見直されています。東京都でも平成6年に「集合住宅における動物飼養モデル規定」を作成するなど、集合住宅でのペット飼育が認められつつあります。

では「集合住宅でのペット飼育」は動物行動学の立場からはどう理解されるのでしょうか。先月、高島平の区民館で「集合住宅でペットと暮らす方法」をテーマに(社)東京都動物保護管理協会主催、「コンパニオンアニマル リサーチ」、集合住宅における動物飼育を考える協議会、板橋区獣医師会の後援によるセミナーが開催されました。東京大学大学院で動物行動学を研究されている工(たくみ)亜紀先生からお話を伺ったあと、日本訓練士養成学校教務主任の藤井聡訓練士による実際に犬を使った「犬のしつけ教室」が行われました。

当日は集合住宅で犬や猫などのコンパニオンアニマルと暮らす方を中心に約150名が参加し、アンケート調査も行われました。

当ニュースレターでは、今号と次号の二回に分けて工先生のお話の要旨をご紹介し、動物行動学からみた集合住宅での快適なペット飼育の方法について考えてみたいと思います。初回となる今号では犬の問題行動とその防ぎ方について考えます。

犬の問題行動とその防ぎ方について
東京大学大学院農学生命科学研究科 農学特定研究員 工亜紀先生
(獣医外科所属)

社会のなかで、人がコンパニオンアニマルと気持ち良く暮らし、調和のとれた生活を送っていくためには、それを妨げる動物の行動とその防ぎかたについて知る必要があります。

人が一緒に暮らしていて困る動物の行動を問題行動と言います。飼い主に向って唸る、噛む、引掻く、吠え声がうるさくて近所迷惑になるなど多くの問題があります。欧米先進諸国ではこのような行動によって飼いきれなくなった犬猫を安楽死させなければならないという悲しい事態が増えています。日本でも西洋の犬種の増加とライフスタイルの西洋化によって、遺伝的、環境的に欧米諸国に近づいており、問題行動の増加が懸念されています。

問題行動は大きく二つに分類されます。一つは前述のように、飼い主や他の人が困る行動で、もう一つは、動物自身が自らの行動のために苦しんだり、怪我をしてしまう行動です。特に、犬は歯という武器を持っており、噛み付いたときの危険度が猫に比べ高いので、犬の問題行動を中心に考えてみましょう。

犬の行動全般を考えた場合、犬とそのルーツである狼は群れを作って暮らしています。群れの中では争いを避けるために「優位関係」という上下関係に似た関係があり、それが人間の家庭で暮らす場合に問題となることがあります。犬は、飼い主の家族を自分の群れだと思い、通常はその一番下の順位に入って暮らすのですが、何かの理由で自分が人よりも上だと勘違いした犬は、自分の地位に対する挑戦と受け止められる人の行動に対して、攻撃をすることがあります。食事をしているときに近づいたり、咥えているものを取ったり、寝ているのを起したり、体に触れたりすると、唸ったり、歯をむき出したり、噛み付いたりします。人と犬の地位がまさに逆転しているわけです。こういう行動を「優位性の攻撃」と言います。

飼い主に対する犬の攻撃性は、一緒に生活していて問題であり、直すべきことです。犬に「座れ」「待て」などを教える服従訓練をすることは非常に大切です。ただ、服従訓練さえしていれば、問題行動は全てなくなるわけではなく、問題行動は「遺伝」「ホルモンの状態」「社会化」「学習」など多くのものの影響を受けて複雑に起こります。飼い主はこのうち、「社会化」「学習」について、飼育環境と対応の仕方で操作することができます。

「社会化」は相手を物体ではなく、付き合っていく相手だと認めて、適切な行動ができるようになることを言います。犬の場合、生後3週間から12週間の期間が「社会化期」で、この期間の経験が一生を左右します。この時期に、母犬や兄弟から早く離されたり、箱の中のような環境で刺激を受けずに過ごすと、社会化が起こらず、成長してから恐怖症になったり、見慣れない人を攻撃するようになります。社会化期には人はもちろん、物、音などの様々な刺激に慣れさせることが必要です。

「学習」は、動物が特定の刺激に対して、今までなかった新しい行動をするようになることです。いわゆる犬のしつけ、服従訓練がそうです。命令した言葉に従わせることは、「学習」を意図的に起こさせているのです。また、飼い主が意識していない場合に学習が起こって問題行動が生まれることもあります。例えば、犬が吠えたからといって食べ物を与えると犬は催促することを学習してしまうことがあります。

このように、動物の行動は多くのものの影響で決まってきます。大切なことは日常の中で、飼い主の対応が犬猫の行動に非常に大きな影響を与えることです。犬の場合、社会性を持つ動物なので、飼い主が注意をはらうことが、とても重要です。また、行動をコントロールしていくためには、しつけ教室で行われているような服従訓練を行ない、犬をきちんと服従させ、群れの中での上下関係、優位関係をきちんと作ることが飼い主にとって不可欠なのです。「服従させるのはかわいそう」という人がありますが、服従は犬という動物が自然の仕組みとして持っているもので、服従させられたからといって犬は辛いということはありません。逆に、飼い主に対する服従を教えられないまま自分の地位が不安定な方が、犬にとっては、はるかにストレスとなります。

飼い主の責任について
(社)東京都動物保護管理協会

犬や猫といったコンパオンアニマルとともに集合住宅で快適に過ごすためには、飼い主のコンパニオンアニマルに対する知識の向上はもちろんのこと、飼い主の責任ある行動が望まれています。犬や猫は家族の一員であるという飼い主の自覚とともに、他の住民に迷惑をかけない様に適正飼養に努め、責任をもって取り組むことが大切です。


* 「集合住宅における動物飼養モデル規定」
集合住宅での動物飼育が一般的になってきたことと、不適切な飼育による近隣とのトラブルを避けるため、平成6年に東京都衛生局が定めたモデル規定


なお、次回は、集合住宅でのコンパニオンアニマルのストレスの防ぎ方とアンケート調査の結果について考えたいと思います。

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