Letter from CAIRC
1998. 3 Vol.2 No.2

人と動物が共に生きていくためには
〜共生のフレームワーク(枠組み、基盤)づくりが急務〜

都市部の集合住宅での動物飼育が認められつつあるなど、都市での動物と人間との関わり方、共生のあり方について社会的な関心が高まっています。しかし、動物との共生について、社会全体のコンセンサスが得られているとは言えません。理由として、その基本となるべき「人と動物との共生」についての考え方の共通の基盤が日本ではまだ出来ていないことがあげられます。では、私たちがこれから構築していかねばならないフレームワーク(後述、中川先生の言葉)とはいったいどのようなものなのでしょうか。

先月、神戸市で、都市での人とコンパニオンアニマルとの共生のありかたについて考えることを目的に「動物とともに暮らすまちづくりシンポジウム」が行われました。主催は阪神・淡路大震災動物追悼記念事業実行委員会で、兵庫県、神戸市、(社)兵庫県獣医師会、(社)神戸市獣医師会、(社)日本動物福祉協会阪神支部、集合住宅における動物飼育を考える協議会で構成されています。3人のパネラーによる講演と県民2人を加えた総合討論が行われました。(総合司会は(財)日本動物愛護協会理事・事務局長の会田保彦氏で、パネラーと講演テーマはそれぞれ、中川志郎氏(茨城県自然博物館長・元上野動物園園長)「都市と動物〜都市は動物とどのようにかかわっているか〜」、吉田真澄氏(同志社大学教授)「ペットの法律から見た日本」、林良博氏(東京大学農学部教授)「都市における犬の問題行動」です。) 今号では、このシンポジウムをもとに、日本における「都市での人と動物との共生」のフレームワークについて考えたいと思います。


都市における人と動物の共生とは

はじめに、都市での人と動物との共生は、生物学的見地からは、どのように考えられるのでしょうか。

中川先生はこう話します。 「もともとは動物と同じ生態系の中で生まれてきた人間も、文明とともに自然の生態系から飛び出し、人間中心の生態系を作りました。その象徴が都市で、動物からみると、もっとも暮らしにくい世界です。そこに人が取り込んだ動物が家畜、ペットです。ペットは人間の生態系に一緒に暮らす仲間であるとともに、人の生態系でしか生きられないように変容してきた動物です。そのような彼らを社会の中でどのように扱い、共生していくかが、今問われているわけです」。中川先生は続けます。

「彼らを理解することが、人間の生態系以外の動物、地球全体の他の生き物とどう接していくかを理解することにつながります。人間のコミュニティの中で彼らペットとの共生ができないのならば、地球全体での人と動物との共存の基盤も危ういのではないのでしょうか。私たちの犬や猫を理解することが、地球全体を理解することになるのです。」

また、林先生はこう話します。「都市は、人にとって問題となるペットの問題行動が起こりやすい環境だといえます。都市以前の環境、また都市以外の環境では問題行動と呼ばれるような犬の行動はほとんど起きません。」


日本の都市における動物との共生の問題点

では、日本の都市で、彼らペットとの快適な共生を行っていくためにはどのようなことに気をつければ良いのでしょうか。林先生は続けます。「ヨーロッパの都市は初期には自然を締め出す形で形成され、後にそれを修正していきました。一方、日本の都市は、江戸のように、都市の中に馬や犬、野生動物がいるような形で、もっとも自然と共生した形で形成され、後に自然を締め出していきました。現在の日本の都市における犬・猫飼育の問題点はそこに起因しているように思われます。自然と共生していた日本では、動物を管理するという考え方が伝統的に極めて弱く、特に成熟した雄の攻撃行動を管理する方法がありませんでした。馬の訓練方法も西洋の科学的な訓練方法とは程遠く、また、去勢という文化・習慣もありませんでした。人と共生していく上で問題となる動物の行動を押えるための訓練マニュアル、方法を持っていなかったのです。現在の日本の都市で犬と暮らすためには、しつけ、教育が不可欠ですが、動物に手を加えて習性を変えることへのためらいが日本人の動物観の根底にあります。現在でも依然として犬の訓練、しつけや去勢に抵抗感を持っている人がおり、都市、特に集合住宅での快適な共生を妨げる結果になっています。伝統的な価値観に配慮しながら、今後どうやって、都市で人と共生する動物の管理法を確立していくのかが現在問われていると思います。」

動物との共生のフレームワーク作りのために

かつては、動物との共生が自然に行われていた日本ですが、現在の日本の都市は急速な近代化を遂げ、都市での住環境は変わりつつあります。そのような状況の中で、「動物との共生」の考え方、フレームワークも混沌として一つに定まっていません。

「日本では、神道の大鳥(鷲)神社、山王(猿)神社などの例が示すように、動物も神になります。また、仏教にも「輪廻転生」の思想があり、日本の文化には伝統的に、動物と人間の生命の共通性、一緒に流れている生命は尊い、という考え方があります。」と中川先生は話します。

しかし、法律という視点から見るとどうでしょうか。吉田先生はこう話します。
「日本にはペットのみを対象にした法律はなく、ペットを対象とした法律としては『動物の保護および管理に関する法律』(動管法)があり、動物の虐待、遺棄の禁止などをうたっています。しかし、動管法違反者の起訴件数はここ数年の年間平均で約3〜4件となっており、この法律は殆ど適用されていないのが実状です。また、集合住宅での動物飼育の可否について直接定めた法律は存在せず、それぞれの集合住宅で定めた管理規約や動物飼育に関する細則などによって決められています。今までの判例では、「動物を飼育する権利」は管理規約や細則に反してでも法的に保護するほどの強い権利ではないという態度が取られています。また、ドイツの民法には「動物は物ではない」と規定されていますが、日本の法律では人と物の区別しかなく、動物を『命あるもの』としての扱いがありません。」

このような現在の日本で、私たちは人と動物との共生をどのように考えていけば良いのでしょうか。

中川先生は話します。「都市における人と動物の共生、集合住宅での動物飼育についての共通の認識、フレームワークが日本ではまだ出来上がっていないのだと思います。日本の社会に都市化が進行する中で、法律家、飼育者、管理者がどこかでフレームワークを決めないと問題は解決しないでしょう。動物が私たち人間と共生するためにはある種の教育、トレーニングが必要であり、それはペットを取り込んだ社会、行政が制度として実施を考えてもいいことだと思います。また、個々の具体的な問題と並行して、人と動物の関わりとは何かを突き詰めて考えて行かないと根本的な問題は解決しないでしょう。」林先生はこう話します。「人は通常の生活では自然を失っており、それを共生している動物が返してくれるのだと思います。人間は社会的な動物ですが、社会的な関係だけではなく他者と生物的な関係を持つことにより、初めてバランスのとれた生活を送ることができます。共生している動物との付き合いは親子関係と同様の生物的なもので、根元的な心のふれあいです。」

最後に、総合司会を務めた会田氏はシンポジウムをまとめてこう述べます。「人と動物との共生のフレームワークづくりについて考える時、現在の日本社会に欠けているものが3つあります。1つは正しい動物観です。動物を感情的にただ可愛がるだけではなく、習性や生態を科学的に正しく理解して扱うことが必要です。次に社会に正しく受けられるための飼い主のマナーとモラル。マナーが守られれば動物の嫌いな人も動物の存在を受け入れる欧米のような成熟した社会になるでしょう。最後に動物を虐待から守り、適正に扱うための具体的な法律ではないでしょうか。」

私ども『コンパニオンアニマル リサーチ』も、人と動物の共生についてのフレームワークづくりというこの大きな取り組みについて、微力なりとも御手伝いしていきたいと考えております。
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