Letter from CAIRC
1998.6 Vol.2 No.4

人と動物の関係学への学問的関心高まる!
−第1回「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」
研究奨学金給付者決まる−

応募総数44件、奨学金給付者3名を選定!

昨年末より募集してきた「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」の研究に対する奨学金給付者として下記の3名が選定されました。

−研究テーマ 「動物介在療法に用いる犬の選択について」
 
うちだ けいこ  
内田 佳子 (36歳・酪農学園大学助教授・北海道江別市在住)
   
−研究テーマ 「犬の美容室内で発生する問題行動に関する調査研究」
 
あらかわ ゆきこ  
荒川 由紀子 (21歳・麻布大学学生・神奈川県相模原市在住)
   
−研究テーマ 「在宅高齢者におけるコンパニオンアニマルの健康度への影響」
−IADL【Instrumental Activities of Daily Living
=手段的日常生活動作能力】及び生理学的指標を用いて−
 
うえち まさる  
上地 (28歳・臨床検査技師・愛知県在住)

第1回「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究奨学金選考委員会は5月19日に開かれ、増井光子麻布大学教授、林良博東京大学教授、「コンパニオンアニマル リサーチ」会長でもある正田陽一東京大学名誉教授の3名の選考委員による厳正な選考が行われました。応募総数は44件、実に15倍の競争率の中での選考会となりました。

ニーズが高まる
「人と動物の関係学」の研究

コンパニオンアニマル リサーチ奨学金は「人と動物の関係学」の研究について給付されるものです。しかし、なぜ「人と動物の関係学」が必要なのでしょうか? これについて選考委員会でも活発に討議が交わされました。

「応募の件数が多く、非常に驚きました。動物学の奨学金応募ではたぐいまれな大激戦と言えるでしょうね。やはり、『人と動物の関係学』は時流の中でニーズの高い、勢いのある学問領域だと実感しました」(増井選考委員)、「応募総数も非常に多かったし、申請者の経歴を見ると、所属分野も多様です。この分野の研究をすすめたいという人がこんなにいたということは『ヒトと動物の関係学会』会長として心強いし、やはり社会的な要請があったんだなと再認識しました。この奨学金制度は潜在的なニーズを汲み上げただけでなく、従来型のシステムではカバーできない研究内容を汲み上げるものだという点でも高く評価できると思います。今後の研究の在り方を変えていくのではないかと感じました」(林選考委員)。

今、人間とコンパニオンアニマルの相互作用の研究に対する関心が高まってきています。世界各国でこの分野における研究がすすみ、コンパニオンアニマルが人間に与える社会的、心理的、生理学的な効果も明らかにされてきています。ただ、ご承知のように、動物学の研究分野として、この「人と動物の関係学」は非常に新しい領域です。より豊かな社会を目指すために不可欠な分野であるにもかかわらず、まだ学問領域として十分なフィールドができていません。研究者も決して多くはありません。「コンパニオンアニマル リサーチ」は、コンパニオンアニマルについて知識や理解を深めていくためにも、人と動物の関係学のフィールドづくり、すぐれた若手研究者援助などが急務であると考えています。それが「人間とコンパニオンアニマルとの関係学研究奨学金」が誕生した背景です。


これまでの実績にはこだわらず、
緊急度、重要度、オリジナリティで評価


今回の募集には、学部学生や院生、すでに研究者として業績をあげている方、また、児童教育関係者、フリーライターなどさまざまな立場の方からの応募がありました。年齢も20歳から39歳と幅広く、「この奨学金は、研究実績のある人だけではなく、多くの人に門戸を広く開いている点でも素晴らしいですね」と林選考委員。応募総数も多く、それぞれ異なった比較できない研究であるだけに、審査は難しく、「全体に、極めてレベルの高いしっかりした研究計画が多かったと思います。ただ、緊急度、重要度、オリジナリティの高いもの、また、この分野でしか研究できないテーマや発表分野が他にない方を優先的に選びました。」と正田選考委員は審査基準を語ります。

奨学金給付が決定した3名の研究について、選考委員からその評価ポイントをうかがいました。「動物介在療法に用いる犬の選択について」を研究テーマに選んだ内田佳子さんは獣医学博士。「内田さんの研究は動物介在療法に使う動物のストレス度を調べるというもの。動物が過労にならないために動物福祉の観点からも重要な研究だと思います。それに調査方法も具体的で、明確に結果を出せるだろうと期待しています」(増井選考委員)。

研究テーマ「犬の美容室で発生する問題行動に関する調査研究」で奨学金給付が決まった荒川由紀子さんは、人と動物の関係学を専攻する学部学生。「荒川さんの研究はターゲットがしっかりしています。トリマーの方と共同研究するということですが、クリアな結果が出そうで期待できます。若い方が研究を手がける場合、多くのことをやろうとするんではなく、荒川さんのように一つひとつつめていくことが大切ですね」(林選考委員)。

また、研究テーマ「在宅高齢者におけるコンパニオンアニマルの健康度への影響 −IADL及び生理学指標を用いて−」を研究する上地勝さんは医学情報学を学ぶ博士課程の学生。「高齢化社会の到来のなかで、高齢者が日常生活をいかに充実させるか、動物を絡め、その調査を行うということが時代のニーズをとらえています。緊急度の高い研究テーマですね」(増井選考委員)。

また、正田選考委員は今回の総評として、「応募された研究は動物介在療法、動物行動学の分野がほとんどでした。選んだ3つの研究もそれぞれ動物介在療法の分野から2つ、動物行動学の分野から1つという内訳です。動物介在療法のなかでも、一つは獣医師の立場から介在療法に使う動物を研究するというもの、もう一つは医学研究者の立場から高齢者をターゲットに研究するもの。オリジナリティがあり、結果が興味深いものばかりです。私たちもその成果を期待しています。」


プラハで行われる「第8回人と動物との相互作用国際学会」に
奨学金給付者を派遣!


奨学金給付が決定した3人の方々には、研究に対する奨学金30万円と、9月にプラハで行われるIAHAIO(International Association of Human-Animal Interaction Organizations・人間と動物の関係に関する団体の国際組織)国際会議に出席する費用が支給されます。IAHAIOは、動物と人間との関係を尊重することに関心を寄せる諸協会および関連組織を包括する国際的な組織で、IAHAIO国際会議は世界各国から動物学の研究者や関係者を集めて、3年毎に開催されています。また、奨学金給付が決定した方々には、期間終了後、研究の経過および結果の概略について報告していただき、国際会議についても同様に報告をしていただくことになっています。
(奨学金給付が決定した方々のインタビューは次回ニュースレターでお知らせします)

■選考委員プロフィール
増井光子 麻布大学獣医学部動物応用科学科教授
獣医学博士。多摩動物園園長、上野動物園園長を経て、現職に。主な著書は「動物の親は子をどう育てるか」「都会の中の動物たち」など。
林 良博 東京大学農学部教授
農学博士。ラプラタ大学客員教授などを経て、現職に。ヒトと動物の関係学会会長、国際自然保護連合、世界自然保護基金、国際捕鯨委員会各委員。著書は「獣医解剖学」など。
正田陽一 東京大学名誉教授・コンパニオンアニマル リサーチ会長
農学博士。東京大学教授などを経て、現在、東京動物園協会理事、山階鳥類研究所評議員、ヒトと動物の関係学会監事などを務める。主な著書は、「人間がつくった動物たち」など。
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