Letter from CAIRC
1998.10 Vol.2 No.6

『第8回人と動物の関係に関する国際会議』
「動物の変わりつつある役割」をテーマに、783名を集めて開催!
−東欧の古都、プラハに日本からも99名が参加−

高齢者や子供とコンパニオンアニマルの関係、動物介在療法から
これまで明らかにされていなかった国の動物の実状まで
世界43カ国から研究・調査が発表される


去る9月10〜12日、『第8回人と動物の関係に関する国際会議』(以下プラハ会議)がチェコ共和国の首都プラハで開催されました。主催は、人と動物の関係学分野に関心を寄せる各国・国内協会や関連団体でつくる国際団体IAHAIO(International Association of Human-Animal Interaction Organizations人と動物の関係に関する団体の国際組織)で、人と動物の関係学分野に携わる研究者、動物福祉関係者、獣医師、心理学者など世界43カ国から783名が集まり、さまざまなテーマで論文発表が行われました。前回のジュネーブ会議(1995年)の参加者が約20名だった日本からは、主催国チェコの184名に次ぐ99名が参加し、日本人のこの分野への関心の高さが改めて明らかになりました。

本会議は、『動物の変わりつつある社会的役割』をテーマとして掲げ、多面的な視点からの論文発表や意見交換が行われました。高齢者とコンパニオンアニマルの関係、学校教育におけるペットのあり方、動物介在療法、ペットロス問題、都市におけるペット管理の問題など先進国の取り組みや、中国、ブラジル、南アフリカにおける動物の実状や歴史などこれまであまり明らかにされていなかった国での動物のあり方や取り組みまで、5つの会場で計80題の、多岐に渡る分野の発表が続きました。また、壁面を使ったポスター発表としても46題が展示され、一つひとつのパネルをていねいに見入ったり、発表者と和やかに談笑したりしている出席者の姿も数多く見られました。

前回、お伝えした、『コンパニオンアニマル リサーチ 人間とコンパニオンアニマルとの関係学』奨学金給付者3名も、プラハ会議に出席しています。その3名を代表して、内田佳子さん(酪農学園大学助教授)から次のような感想が寄せられています。

「この会議では数多くの犬の姿がありました。会議の間中、盲導犬や介助犬が静かに床に伏していて、日本でもいつかはこのような光景がくるのだろうと感慨深く思いました。実際の会議は、3日間、午前8時40分から午後5時30分までずっと聴き続けましたが、同時進行プログラムもあって、そのすべてを聴くことができなかったのが残念です。なかで、最も興味深く感じた発表は、英国・ワーウィック大学による自閉症児・患者とペットについての特別講演です。研究として、症例の患者が自分のペットと家族では関わり方を大きく変えることが示されていました。人間との触れ合いをいやがる患者たちが自分のペットに関しては抱きしめたり、なでたりする触感も楽しんでいるというわけなんです。近い将来、私自身もこのような研究を行い、動物側の行動について獣医師の視点から観察してみたいと思いました。こんな素晴らしい機会を与えていただいて感謝しています」


高齢化社会の抱える問題と子供の心身の育成に
ペットの介在が大きな役割を


今回、高齢化社会の抱える問題にペットが果たす役割について言及した研究が数多く発表されました。カナダ・ ブリティッシュ・コロンビア大学レイナ教授は、ペットを飼っているかどうかで高齢者の健康に差が出るという発表を行いました。高齢者でペットを飼っていない人が1年間になんらかの医療サービスを受ける回数が37回なのに対して、ペットの飼い主は30回、また、ペットを飼っていない人が1年間に平均して13日間入院するのに対して、ペットの飼い主は8日間に過ぎないというわけです。カナダでは総医療費の40%が65歳以上の高齢者によるものです。つまり、ペットが果たす役割は高齢者の健康維持、そして、今後ますます増大する医療費を削減する役割を果たす可能性を指し示しているといえるでしょう。

なお、痴呆症患者たちが暮らす老人ホームで、飼っている猫の存在が高齢者、スタッフ、訪問客などに温かく、過しやすい環境をつくりだしていることを指摘したオランダ・ユトレヒト大学スレッジャース教授のポスター発表もありました。平均寿命が80歳を超えている日本でも、これらの成果を生かせば、今後、大きな効用が期待できるはずです。

今回の会議に参加した正田陽一東京大学名誉教授(コンパニオンアニマル リサーチ会長)はこう語ります。

「高齢化社会を考えるうえで、コンパニオンアニマルの存在は大きいですね。『人間とコンパニオンアニマルとの関係学』奨学金の給付が決まった上地勝さん(筑波大学大学院博士過程)たちの『在宅高齢者におけるコンパニオンアニマルの健康度への影響』も高齢化社会の問題を追求しようというものです。これらの研究を考えてみても、手応えのある結果になるのでは、と楽しみですね」

一方、子供の心身育成にペットは重要な役割をもっているという発表にも注目が集まりました。前出の英国・ワーウィック大学の自閉症患者の研究やアメリカ・パーデュー大学メルソン教授の「ペットは家族のサポート役」という発表もその一環です。メルソン教授は結論として、「ペットは家族の潤滑油になっている」と語りました。とくに、週末の行事など家族で集まる場合にはより効果を発揮するといいます。教授が行った調査によると、42%の子供たちが自発的に「ペットは自分自身のサポート役になっている」と答えたということです。

高齢者の健康、子供の育成…。つまり、ペットは社会的な弱者でもある高齢者や子供の心身の健康になんらかの関わりをもっているわけです。人間とコンパニオンアニマルの関係学のニーズはこれからますます大きくなるにちがいありません。


世界中の人々に最高水準の健康を
WHOが共同スポンサーに!


今回の会議は、WHO(世界保健機構)が共同スポンサーとなったことで、より多くの人々からの注目を浴びることになりました。今、現代人の多くが、病気ではないけれど、ストレス等からけっして健康とはいえない状態だと言われています。しかし、WHOが目指すのは本当の意味での健康です。そのために今後、WHOはIAHAIOと協力していくという姿勢を明らかにしています。世界中の人々が最高水準の健康を維持できることを目指すWHOがこの分野と手を結んだことで、今後、新しい展開が始まることは間違いないでしょう。世界各国で、それぞれの方法論で進められていた動物介在療法も、今回、決議案として「アニマル・アシステッド・アクティビティとアニマル・アシステッド・セラピーに関するガイドライン」が決まったため、この領域の研究者や獣医師、団体にとって、活動指針が明確になるはずです。

また、数々の著書で知られる動物行動学者ブルース・フォーグル博士は基調講演のなかでヨーロッパの動物の役割変遷について語っています。動物たちは食料や衣服の材料の供給源という長い歴史の後、労働のサポート役という役割を経て、今日のコンパニオン=伴侶としての存在に変わってきました。そして、現在の動物たちを、“into home and heart”と表現していました。動物たちは室内に入ることを許されたとき、同時に私たち人間の心の中にも入り込んできたというのです。

私たち「コンパニオンアニマル リサーチ」も、この会議でブースを出展しました。ここでは「コンパニオンアニマル リサーチ」の活動を紹介するとともに、集合住宅でペットを飼う上での問題や認知度など日本のペット事情の紹介を行いました。もちろん、そのブースは、出席者たちとの情報交換の場でもありました。たくさんの出席者に出会い、話すうち、欧米からは医師、ソーシャルワーカーなど医療従事者がたくさん参加していることが明らかになりました。「人と動物の関係学」は獣医師が牽引してきた研究分野です。今日、社会学者たちも研究を始めました。今、必要なことはもっと多くの医療従事者が「人と動物の関係学」に携わり、自分たちの研究分野としてとらえることです。それによって、「人と動物の関係学」はより明確な科学の分野として、人間の健康をサポートしてくれるようになるはずだ、と私たち「コンパニオンアニマル リサーチ」は考えます。


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