Letter from CAIRC
1999.5 Vol.3 No.2

人と動物の関係学への学問的関心高まる!
−第2回「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」
研究奨学金給付者、決定!!−

応募総数44件、奨学金給付者5名を選定

昨年度からスタートした「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究奨学金の第2回給付者として、下記の5名が選出されました。昨年度は3名の給付者に各30万円を援助いたしましたが、今回は給付者を5名に、奨学金はそれぞれの研究に合わせて50万円まで給付する予定です。今後、5名のみなさんには、それぞれの研究に向けて、調査や実験を進めていただき、1年後には「コンパニオンアニマル リサーチ」から研究結果を報告いたします。

−研究テーマ 「幼稚園児の教育における伴侶動物の意義と役割」
−ヒトと伴侶動物双方の福祉を考える−
 
こば ゆき  
木場 有紀 (24歳・広島大学大学院博士課程学生・広島県在住)
   
−研究テーマ 「遺伝子解析による犬の性格予測」
 
たかくら    
高倉 はるか (27歳・東京大学大学院博士課程学生・東京都在住)
   
−研究テーマ 「障害者乗馬活動における人と馬との関係に関する生理学的研究」
 
つづき まさこ  
続木 雅子 (28歳・臨床検査技師・愛知県在住)
   
−研究テーマ 「コンパニオンアニマルによるストレス緩衝効果の検討」
 
たねいち こうたろう  
種市 康太郎 (28歳・早稲田大学大学院博士課程学生・東京都在住)
   
−研究テーマ 「人はペットに何を求めるのか〜ペットの存在意義の日本に
おける変遷に関わる社会学的考察」
 
にいじま のりこ  
新島 典子 (31歳・東京大学大学院修士課程学生・神奈川県在住)

第2回「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究奨学金選考委員会は5月17日に開かれ、増井光子麻布大学教授、林良博東京大学教授、「コンパニオンアニマル リサーチ」会長でもある正田陽一東京大学名誉教授の3名の選考委員による厳正な選考が行われました。応募総数は昨年同様44件、今回は海外在住の研究者や外国人の方の申請もあり、バラエティに富んだ、レベルの高い研究が数多く集まりました。

若手研究者の育成をサポートするため
緊急度、重要度、オリジナリティを審査基準に


今、「人と動物の関係学」に対する注目が集まっています。世界各国でこの分野における研究が進み、コンパニオンアニマルが人間に与える社会的、心理的、生理学的な効果も明らかにされてきています。福祉学、医学などさまざまな分野からの注目も集まり、今後、より豊かな社会を目指すために不可欠な学問領域になることは間違いありません。ただ、その一方で、まだ、そのフィールド作りも必要な新しい学問領域であることもご存知の通りです。私たち「コンパニオンアニマル リサーチ」はこの分野のいっそうの発展のためにも、コンパニオンアニマルについて知識や理解を深めていくためにも、人と動物の関係学のフィールド作り、すぐれた若手研究者育成のためのサポートを行っていきたいと考えています。その一環が昨年度にスタートした「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究奨学金です。今後、この奨学金は毎年、若手研究者に向けて給付していく予定です。

今回の募集には、動物学・獣医学を学ぶ学部学生や院生、すでにこの分野の研究者として業績をあげている方、また、建築学、社会学、心理学、医学、教育学などさまざまな分野からのアプローチもありました。「前回に比べても、よりレベルの高い研究が集まっていて、どれが選ばれてもおかしくない研究ばかりでした。それだけに選考が難しかったです」と、増井光子選考委員。選考委員長である正田陽一コンパニオンアニマル リサーチ会長は「優れているということだけでは、それぞれ異なった研究であるだけに比較ができません。それで、緊急度、重要度、オリジナリティの高いものを選びました」と審査基準を語ります。それでも、選考は困難を極めました。


動物学・獣医学だけでなく
心理学、社会学、医療分野からのアプローチにも期待


奨学金給付が決定した5名の研究について、選考委員からその評価ポイントをうかがいました。まず、「幼稚園児の教育における伴侶動物の意義と役割」を研究テーマに選んだ木場有紀さんは家畜行動学を学ぶ博士課程の学生。「これは、園児たちに命の尊さを感じさせるための心を養う方法として、伴侶動物の飼育をとりあげたものです。子どもたちの残虐な犯罪が増えている今、非常に今日的なテーマで、興味深い内容だと思います」(増井選考委員)

次は、高倉はるかさんが研究する「遺伝子解析による犬の性格予測」。高倉さんは獣医動物行動学を学ぶ博士課程の学生。「これまで犬の行動や性格を研究する場合、観察するという手法が主流でしたが、これは遺伝子解析で行動予測をするという新しい手法です。犬種による性格を明らかにしたいということなので、期待しています」(正田選考委員長)

研究テーマ「障害者乗馬活動における人と馬との関係に関する生理学的研究」を選んだのは続木雅子さん。続木さんは臨床検査技師として医療福祉研究施設で働いています。「馬に乗れば気持ちがいいというのは心理的な効用だけだと思われがちですが、障害者の乗馬が平衡性の改善など身体に効果的であることは知られています。ただ、動物側の研究者が人へのアプローチはしづらいので、このように医学従事者が心電図、筋電図など客観的なデータで研究をするというのは興味深いですね」(増井選考委員)

「コンパニオンアニマルによるストレス緩衝効果の検討」は種市康太郎さんの研究テーマ。種市さんは心理学を専攻する博士課程の学生。飼い主にとって、コンパニオンアニマルを飼うことがストレスを緩和する効果をもつかどうかということを調査研究します。「心理学の面から研究する、日本では新しいタイプの研究者ですね。外国では心理学的アプローチを行う研究も増えているので、種市さんには期待したいですね。家庭でコンパニオンアニマルを飼う効果が明らかになると、今後のこの分野に大きな影響を与えると思います」(林選考委員)

また、「人はペットに何を求めるのか〜ペットの存在意義の日本における変遷に関わる社会学的考察」を研究する新島典子さんは社会学を学ぶ修士課程の学生。社会学的見地からペット観を研究します。「社会学の場合、人間の自我とは他者との相互作用でできていると考えられているのだそうです。その他者とはあくまでも人間のみ、伴侶動物は含まれません。彼女の向かうテーマは非常に大きく、伴侶動物の存在が自我の形成に影響を及ぼすのではないか、ということを分析しようとしています。これまで社会学からのアプローチはほとんどありませんでしたし、取り組みとしても面白いですね」(林選考委員)

今回は20代の若手研究者中心に奨学金援助を行うことになりました。それも、心理学や社会学からのアプローチもあり、人と動物の関係学はそのジャンルを超え、幅広い視点から研究されようとしているようです。選考委員の方々をはじめ、私たち「コンパニオンアニマル リサーチ」も大いに期待しています。

■選考委員プロフィール
増井光子 麻布大学獣医学部動物応用科学科教授
よこはま動物園ズーラシア園長
獣医学博士。多摩動物公園園長、上野動物園園長を経て、麻布大学教授に。今年、ズーラシア園長にも就任。主な著書に「動物の親は子をどう育てるか」などがある。
林良博 東京大学大学院農学生命科学研究科
農学部研究科長、農学部長
農学博士。ラプラタ大学客員教授などを経て、現職に。ヒトと動物の関係学会会長、国際自然保護連合、世界自然保護基金、国際捕鯨委員会各委員。著書は「獣医解剖学」など。
正田陽一 東京大学名誉教授・コンパニオンアニマル リサーチ会長
農学博士。東京大学教授などを経て、現在、東京動物園協会理事、山階鳥類研究所評議員。主な著書は、「人間がつくった動物たち」など。
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