Letter from CAIRC
1999.7 Vol.3 No.3

第1回「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」
研究結果発表会開催!
若手研究者の発表に報道陣からも期待集まる

「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」
研究奨学金給付者の1年間の研究成果実る!

私ども「コンパニオンアニマル リサーチ」は昨年から研究者援助事業として、「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究奨学金プログラムを行っています。昨年5月、第1回給付者3名の方々を選考させていただきましたが、その研究結果発表会を行いましたので、ご報告いたします。

去る6月28日、第1回「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究結果発表会を東京・千代田区の日本記者クラブで約40名の報道関係者を集めて行ないました。発表会には、研究に携わった内田佳子さん、上地勝さん、斉藤具子さん、荒川由紀子さん、北川千代さんの5名が出席。まず、「コンパニオンアニマル リサーチ」会長を務める正田陽一東京大学名誉教授の挨拶でスタートいたしました。挨拶の内容は、人間と動物の関係性の歴史や今、なぜコンパニオンアニマルの存在が話題になっているのか、というものです。

「かつて、人間は、実利的に動物を利用する方法として家畜を生み出し、その一環として愛玩用の動物・ペットも作りました。しかし、今、両者の正しい関係について考えられるようになってきて、人間と一緒に暮らす動物がペットではなく、伴侶動物、つまり、コンパニオンアニマルであるという考え方が浸透してきました。人間は人間だけでは生きられない。どれだけ機械力、工業力が進んでも、動物とのふれあい、動物が人間に与える効果は機械力では代替できないということが認められるようになってきたのです。『人と動物の関係学』はそんな流れを受けて、人間と動物の関係について研究していく分野として期待されています」(正田)

続いて、スライド、OHPを交えて、3名の発表が行われました。それぞれの発表の後には報道陣から数多くの質問も飛び、研究奨学金プログラムやこの分野への関心の高さがはっきり分かる、熱気のある研究発表会となりました。

「会場に着いてみて、報道陣の多さに驚きましたが、無事終りほっとしています(笑)。この研究発表会で他の2名の発表も見学させていただきましたが、研究者を援助するこの奨学金は大変ありがたいな、これからも続けて欲しいな、と思いました。私自身も実験例数を増やし、この研究を続けて確実なものにしたい、と考えています」

と言うのは、奨学金給付者の一人、内田佳子さん。1年間、それぞれの研究を続けたみなさんは今後も研究者として活躍されることでしょう。私ども「コンパニオンアニマル リサーチ」は研究者の方々がこれからもさまざまな研究を通じて、この分野の発展に貢献されることを大いに期待しています。

適性試験に合格している使役犬なら安心して、AAA/AATに参加できる
研究テーマ「AAA/AATは犬にストレスを与えるだろうか?」
内田佳子・保本聡子

この研究は当初、「動物介在療法に用いる犬の選択について」という研究テーマでスタートしたものですが、今回の発表に当たり、1年間の成果をまとめ、テーマを絞りました。内田さんは獣医学博士で、酪農学園大学獣医学部助教授。北海道ボランティアドッグの会に所属し、高齢者施設、保育園、精神障害者施設などで動物介在活動などを行っています。研究内容は、AAA(動物介在活動)/AAT(動物介在療法)の使役犬がそれらの活動を行うことでストレスを感じているかどうか調査研究したもの。これまで、AAA/AATの使役犬について、その適性を調べることはあっても、その犬たちがストレスを受けているかどうか調べたものはありません。AAA/AATが今後、いっそう普及するためにも、動物愛護の視点からも重要な研究といえるでしょう。

この調査では、行動観察だけではなく、急性ストレスの指標として唾液中コルチゾルの測定を行い、ストレスを科学的に、客観的に調査しています。これまで動物側のストレス度について調査が行われていない理由の一つとして、客観的な判定が難しいということがありました。しかし、唾液中コルチゾルなら採取も簡単で、使役犬にストレスもかけません。そんな状況から、活動前後のコルチゾル値の測定結果と行動観察の両面から調査研究が行われたわけです。

「動物が不安を示す行動として、パンティング(喘ぎ呼吸)、不適切な場所での排尿や排便、集中力の低下、脱出しようと試みたり、出入り口に近寄ろうという行動、異常にほえる、鳴く、鼻を鳴らす、異常な興奮、頻回のあくび、舌なめずり、過度の身繕いなどがあります。今回調査した結果、動物介在活動で、これらの行動をとる供試犬はいませんでした。動物介在療法では毎回30分を過ぎた頃から供試犬の集中力低下が観察されましたが、他の不安行動はまったくなかったことから供試犬の性格によるものと考えられます。

また、コルチゾルの測定値についても活動前の値は平常時の値に合致していて、年齢、活動経験、適性試験の成績とは関係が見られませんでした。活動のための車での移動もストレスにはなっていないことが示されました。活動後の測定値もそのほとんどが平常時の値でしたが、動物介在活動で2例が非常に強いストレスを受けているという結果が出ました。その原因は、活動した施設に発情した雌犬がいたことではないかと思われ、今後、この2頭についても、他の使役犬についても追跡調査する予定です。

今回の研究に使った犬はすべて使役犬としての適性試験に合格しています。そのため、犬全般に言えることではありませんが、AAAも、AATも、使役犬のストレスの原因にはなっておらず、動物福祉を考えても安心して活動に同行できることが示されたと思います」


コンパニオンアニマルは高齢者の健康に
効果を発揮している可能性が大きい!
研究テーマ「在宅高齢者におけるコンパニオンアニマルの飼育と、
IADL(手段的日常生活動作能力)、及び血圧との関連
−茨城県里美村における調査研究−」

上地 勝・斉藤 具子

研究代表者である上地勝さんは現在、筑波大学社会医学系助手で、今回のテーマは、高齢者の健康と動物を飼育するという行為との関連を調査するものです。調査が行われた里美村は茨城県最北端に位置する地域にあり、老年人口は27.4%。わが国の高齢化率のピークは2050年に32.3%になると予想されていますが、きわめてその人口構成に近い数字を示しています。そのうえ、里美村では、すでに独居高齢者の増大、保健・医療・福祉の負担増加など地域社会における諸問題が発生しています。今回の調査にあたり、21世紀のわが国と似通った人口構成や諸問題を抱える地域といえるわけです。

一方、高齢社会を迎えた現在、寝たきりの老人も少なくありません。つまり、長寿と言うだけでは高齢者の健康をはかれない状況になっています。そんな理由から開発された指標がIADL(Instrumental Activities of Daily Living )で、電話を一人で使うことが出来るとか、食品や衣料品を自分で買うことができる、といった、社会生活を営むうえで不可欠な能力7項目を調べて、1つ以上出来ない場合を「IADL障害あり」とみていきます。これまでに発表されたIADL関連の研究では、IADLの障害をもつ人は早期に死亡しがちであることも報告されています。

今回、調査対象者は65歳以上の高齢者1,345人のうち、無作為に抽出した400人。自記式質問紙の郵送と電話でのフォローで、性別や年齢、家族構成など対象者の属性、既往歴の有無や病名、降圧剤の服用の有無など健康状態、日常生活状況、コンパニオンアニマルに関する項目として、飼育歴、動物名、飼育年数、過去の飼育歴などの調査を行い、その関連についてロジスティック回帰分析を行いました(ロジスティック回帰分析とは、ある現象の発生する確率、つまり、見込みをいくつかの変数で説明しようとするものです)。

「ペットの飼育とIADL障害の関係では、ペットの飼育経験のある人は飼育していない人に比べて、IADLの障害をもつ割合が小さい傾向があるということがうかがえました。ペットへの愛着度として、『私にとってペットは親友だ』と答えた人はIADLの障害をもつ割合が小さく、ペットの心理的な効果もあると思われます。つまり、犬の飼育、過去の愛着度、ペットに対する好意的な感情は高齢者のIADLと関連する要因であることがわかりました。また、ペットに対して愛情を注いでいる人ほど降圧剤を使用していない、という傾向も見られます。ただ、血圧とコンパニオンアニマルの飼育との関連は今のところ認められませんが、データが少ないためとも考えられ、今後、追跡調査の予定です」


問題行動の多くは犬種の性質によるもの
美容師と飼い主の協力の必要性が浮き彫りに!
研究テーマ「犬の美容室内で発生する問題行動に関する調査研究」
荒川由紀子・北川千代

荒川さんは最年少の22歳で、現在、麻布大学大学院博士課程の学生。共同研究者である北川さんは犬の美容師で、研究スタート当時は麻布大学学生でした。この研究では、全国の犬の美容師にアンケート調査を行う一方、美容室やペットショップを通じて飼い主にもアンケート調査を行いました。美容師向けのアンケートは46%の回収率で506通を調査分析したもの。飼い主への調査は403通の回答を得ています。実際、犬種ごとの行動や犬種本来の性格について調査した研究はほとんどありません。また、問題行動について、現場の声を集めた研究も少なく、まだまだ調査の必要な領域です。荒川さんの研究はその先駆けとして、非常に期待できるものといえるでしょう。

「美容室内の問題行動は、暴れる・噛むなどの攻撃的行動と、おびえる・逃げるなどの逃避的行動に分けて調査しました。まず、全体として美容室を訪れる犬種は124種。専門家の技術が必要な長毛種だけでなく、小型犬から大型犬、短毛種、雑種までがいるので、犬種に応じたさまざまな対応が必要となるわけです。問題行動の傾向として、メスよりオスが多く、年齢的には2〜8才の成犬が多いという結果でした。また、予想では幼犬の場合、逃避的行動が、老犬の場合、攻撃的行動が多いと思われましたが、調査の結果は犬種ごとの差の方が大きく、年齢による変化はありませんでした。

犬種で見ていくと、シーズーが90%と高い割合で問題行動を起こしています。とくに、攻撃的行動は78%と他の犬種に比べて圧倒的に多いようです。もっとも、犬が手入れの中でとくにいやがるのが爪切り、耳掃除、毛玉取りですから、毛玉取りの必要な長毛種は問題行動が多くなりがちともいえます。また、短毛種なのに攻撃的行動が高かったのが柴犬。攻撃的行動は日本犬全般に多く見られました。日本犬は手入れそのものが嫌いで、いやなことは飼い主の言うことも聞かないという傾向があるようです。

美容師や飼い主への調査の結果、美容師は犬の問題行動を飼い主の責任だと考える傾向も出ていますが、問題行動を調査すると、しつけの問題より犬種の性質の方が顕著に表われていることも明らかになりました。その一方、2割もの犬が問題行動を起こしているのに、飼い主は「このままでよい」と考えてもいます。飼い主が「多少のやんちゃもかわいいもの」ととらえているのに対して、美容師側は深刻な問題だと受け取っているのです。飼い主側も問題行動を減らす努力をする必要があるでしょう。つまり、双方の協力のもと、犬種ごとの対応を考えていくことが大切だということがわかったと思います」
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