Letter from CAIRC
2000.5 Vol.4 No.2

第3回「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」
研究奨学金給付者決定!!
次代を担う若手研究者に選考委員の期待集まる

応募総数42件、研究奨学金給付者5名を選出

98年度よりスタートした「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究奨学金の第3回給付者として、下記の5名が選出されました。

−研究テーマ 「心筋梗塞後のうつ症状及びQOL(Quality of Life)改善への
イヌによるアニマル・アシステッド・セラピーの試み」
 
もとおか まさひこ  
本岡 正彦 (35歳・群馬大学医学部助手・群馬県伊勢崎市在住)
   
−研究テーマ 「雲南省チベット族社会におけるイヌの位置付け
−牧畜民とイヌの関係についての構造人類学的考察−」
 
やまぐち たかよし  
山口 哲由 (25歳・京都大学大学院博士課程学生・京都市在住)
   
−研究テーマ 「イヌにおける弁別学習を用いた数に関する能力の研究」
 
さいとう みちこ  
斎藤 通子 (26歳・麻布大学大学院博士課程学生・東京都三鷹市在住)
   
−研究テーマ 「サービスドッグの適性予測の試み
−性格関連遺伝子を指標として−」
 
にいみ ようこ  
新美 陽子 (23歳・岐阜大学大学院博士課程学生・岐阜県岐阜市在住)
   
−研究テーマ 「テレコミュニケーションシステムを用いた
人とコンパニオンアニマルとの関係拡張の研究」
 
うえおか りょうこ  
上岡 玲子 (29歳・東大先端科学技術研究センター研究員・東京都在住)

5月18日、第3回「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究奨学金選考委員会が行われ、上記5件の研究に奨学金50万円が給付されることに決定しました。選考委員は、太田光明麻布大学教授、森裕司東京大学教授、「コンパニオンアニマル リサーチ」会長を務める正田陽一東京大学名誉教授で構成されています。

IT分野、DNA研究、文化人類学など
さまざまな分野から数多くの応募が集まる


私たち「コンパニオンアニマル リサーチ」は「人と動物の関係学」の発展やコンパニオンアニマルへの理解が深まっていくことを願い、人と動物の関係学のフィールドづくり、すぐれた若手研究者育成のためのサポートを行っています。その一環が「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究奨学金プログラムです。今回の募集には動物学・獣医学を学ぶ学生はもちろん、この分野の数多くの研究者、また、社会学、医学、文化人類学、心理学、看護学、薬学、生物学などこれまで以上に幅広い分野からの応募がありました。「過去2回の応募では少なかった文系からの申請も多かったうえに、IT分野からの応募もありました。今回は、優れた研究であることを最優先しながらも、できるだけ広い範囲から選ぶことを心掛けました」と選考を振り返るのは、選考委員長である正田「コンパニオンアニマル リサーチ」会長。選に漏れた研究もそれぞれ興味深く、数多くの若手研究者が確実に育ってきていることに選考委員も大きな期待を感じられたようです。

選出のポイントは視点のユニークさ、実現性があること、
目的、プランが具体的でクリアであること


奨学金給付が決定した研究について、選考委員からその評価ポイントをうかがいました。

研究テーマ 心筋梗塞後のうつ症状及びQOL(Quality of Life)改善への
イヌによるアニマル・アシステッド・セラピーの試み」について
(研究者:本岡正彦)

「アニマル・アシステッド・セラピーの効果は、科学的なデータが非常に少ないのが現状です。しかし、セラピーの効果は、科学的なアプローチがないとわかりません。他にもQOL改善・向上についての研究はありましたが、本岡さんの研究がその目的、計画などについてもっともクリアであり、魅力的でした。また、この分野の研究は医療従事者による積極的な取り組みが必要であることも選考の理由です」(太田選考委員)

研究テーマ

「雲南省チベット族社会におけるイヌの位置付け
−牧畜民とイヌの関係についての構造人類学的考察−」について
(研究者:山口哲由)


「これは中国・チベット族によるイヌの飼養形態の実態調査と、生活の中で使用されているイヌに関連する語彙を収集し、人間と動物の関係について体系的な研究を行うものです。今回は、文化人類学の見地から国・地域・民族によるイヌの飼い方の歴史を研究したいという応募がいくつか寄せられました。地域、文化によってイヌの飼い方は異なります。それを調査し、研究することも大切です。この研究は、牧畜民でもあり、伝統や慣習を大切にしている少数民族の調査なのでこれまでにない結果が出るものと期待できます。イヌに関する語彙の収集や研究に取り組むという視点も面白いと思います」(正田選考委員)

研究テーマ 「イヌにおける弁別学習を用いた数に関する能力の研究」について
(研究者:斎藤通子)

「イヌの研究は、行動特性あるいは嗅覚や聴覚などの感覚系に焦点があたっていて、イヌの知能を客観的に調査する研究はあまりなかったと思います。イヌが数字の認識ができたと思っていても人の表情や態度を読んで、状況を認識するという場合がほとんどです。本当に数字を理解しているか、客観的に調査し、データを取ることで、イヌをより正確に理解することができるはずです。しつけの方法などの分野でも役に立つ研究だと思います」(太田選考委員)

研究テーマ 「サービスドッグの適性予測の試み
−性格関連遺伝子を指標として−」について
(研究者:新美陽子)

「ヒトの性格形成への関与が予測される遺伝子の多型性が数年前に相次いで発見されて以来、気質や個性の基盤となる遺伝子すなわち性格関連遺伝子を探索しようという研究が脚光を浴びています。新美さんは世界に先駆けて、イヌの性格関連遺伝子(ドーパミン受容体D4遺伝子)に関する研究を行い、すでにいくつかの興味深い報告を行って注目を集めている方です。行動と遺伝子という一見かけ離れたものを結ぼうとするこうした研究は、生物学的にも重要で緊急度の高い研究課題である、ということで選考委員全員の意見が一致しました。基礎研究の成果が、多大なコストを要するサービスドッグの育成効率の改善につながるような応用研究へと発展していくことを大いに期待しています」(森選考委員)

研究テーマ 「テレコミュニケーションシステムを用いた
人とコンパニオンアニマルとの関係拡張の研究」について
(研究者:上岡玲子)

「IT革命のおかげで、インターネットや携帯電話を使って家族はどこにいても連絡を取り合うことができるようになりました。しかし、多くの飼い主にとって家族の一員であるはずのペットとのコミュニケーションは、こうした情報技術革新の恩恵に浴せずにいます。実際、心配でペットを残しては外出できないという飼い主の方も少なくありません。上岡さんの提案は、家の中に配置したセンサーを使って、ペットが今どこでなにをしているかを携帯端末でチェックしたり、外出先からでも給餌など必要なケアを与えられるようなシステムを開発しようというものです。先端科学の急速な発展はときには殺伐とした環境を生み出す一面も持っていますが、このように人の心を和ますような新たなコミュニケーションを創出してくれる可能性もあるわけです。夢のある研究だと思います」(森選考委員)

総評として、正田会長は「質が高く、バラエティに富んだいい研究テーマをバランスよく選ぶことができたと思います」と言います。今回はIT分野、DNA研究という先端科学や文化人類学、考古学などからのアプローチが選出されました。「人と動物の関係学」が若手研究者の先駆的なアプローチによって、着実に発展しつつあることに、私たち「コンパニオンアニマル リサーチ」は大きな期待を寄せています。

■選考委員プロフィール
太田光明 麻布大学獣医学部動物人間関係学研究室教授
大阪府立大学農学部助教授を経て、99年より現職。動物の持つ「癒し効果」に注目し研究を進めていて、著書に『理学療法士・作業療法士のための生理学』、『大地震の被災動物を救うために』などがある。
森裕司 東京大学大学院農学生命科学研究科
獣医動物行動学研究室教授
東京大学助教授を経て、97年より現職。現在、ヒトと動物の関係学会学会誌編集委員長、日本繁殖生物学会誌編集委員長。主な訳書は『Dr.ハートの動物行動学入門』など。
正田陽一 東京大学名誉教授・コンパニオンアニマル リサーチ会長
農学博士。東京大学教授などを経て、現在、東京動物園協会理事、山階鳥類研究所評議員。主な著書は『人間がつくった動物たち』など。
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