Letter from CAIRC
2000.7 Vol.4 No.3

第2回「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」
研究結果発表会開催!
幅広い学問領域からのアプローチに注目集まる

奨学金助成を受けた4名の1年間の研究成果発表!

私ども「コンパニオンアニマル リサーチ」は98年から研究援助事業として「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究奨学金を助成しています。昨年6月、第2回の給付者5名の方々を選考させていただきましたが、その研究結果発表会を行いましたので、ご報告いたします。

去る7月12日、第2回「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究結果発表会を東京・千代田区のグランドアーク半蔵門で開催。発表会には研究に携わった木場有紀さん、谷田創さん、続木雅子さん、慶野裕美さん、伊藤晋彦さん、新島典子さん、種市康太郎さんの7名と、第3回選考委員を務めた太田光明麻布大学教授、森裕司東京大学教授、正田陽一「コンパニオンアニマル リサーチ」会長が出席いたしました(昨年の給付者の一人、高倉はるかさんの研究は当初の計画より遅れてスタートしたため、来年度の研究発表会で報告することになりました)。研究発表会は正田会長の挨拶でスタートいたしました。挨拶の内容はこの学問分野の広がりについてです。

「今回の特色として、社会学、心理学など文系の発表もあり、多岐に渡る分野からのアプローチが並びました。このように研究分野の幅が広がっていることを嬉しく思っています。98年、人間と動物の関係学の国際会議がチェコで行われ、日本からは約100名の参加者がありましたが、日本人・日本関係者の研究発表は2題のみでした。しかし、2001年にはブラジルでリオデジャネイロ会議が開催されます。今回、発表されるみなさんの成果も含め、さまざまな方面から研究が進むことで、次の国際会議で日本からの研究が取り上げられること、研究者の方々が活躍されることを期待しています」(正田)

かつて、人間は、実利的に動物を利用する方法として家畜を生み出し、そのなかで愛玩用の動物=ペットも作りました。しかし、動物に対して研究や理解が進んだ今、人間と一緒に暮らす動物はペットというより、伴侶動物、つまり、コンパニオンアニマルであるというとらえ方が浸透してきました。高度情報化が進んだ現代社会だから、動物とのふれあい、動物が人間に与える効果がクローズアップされてきたともいえるでしょう。「人と動物の関係学」はそんな時代の流れを受けて、人間と動物の関係について研究していく分野として生まれました。これまでは獣医学、動物行動学からのアプローチが中心でしたが、自然科学分野だけでなく、文系分野からの取り組みも加わることにより、より有意義な学問分野として広がっていくことは間違いありません。

幼稚園での動物飼育を調査分析! 
71.6%が園児と動物の触れ合いを奨励
研究テーマ:「幼稚園児の教育における動物飼育の意義と役割」
−ヒトと動物双方の福祉を考える−
木場 有紀・谷田 創

研究代表者である木場有紀さんは現在、広島大学大学院博士課程で家畜行動学を学ぶ学生。幼稚園における動物飼育および動物教育の取り組みの現状を調査することが今回のテーマです。今、幼稚園ではさまざまな動物が飼育されています。しかし、管理の実態はあまり明らかにはなっていません。それだけに、動物福祉の面からも、幼児教育の面からも大きな意義があるといえるでしょう。

今回の発表は、幼稚園での園児と飼育動物を中心に調査し、分析したものです。調査の方法としては、広島県下の全幼稚園342件に動物飼育に関するアンケートを郵送。幼稚園での動物飼育の状況を調査し、動物を飼育している幼稚園が教育における動物飼育の意義と役割をどのようにとらえているのかを分析しようと試みています。アンケートには196件の幼稚園から回答があり、回答率は57.3%。そのうち、動物を飼育していた幼稚園は169件と86.2%にも上りました。

「動物に対する園児の態度は昔と比較して変化したかという問いには、『やや変化した』『非常に変化した』と回答した幼稚園が17.8%となりました。具体的な変化としては、『知識は豊富だが、昆虫などに触れられない』『抱き方が乱暴である』『動物に対して異常に関心を示す子供がいる一方で、関心を示さない子も増加している』『生命の尊さを認識できていない』などが挙げられていました。また、71.6%の幼稚園が『飼育している動物との触れ合いを園児に対して奨励している』と答えています。その理由としては、『園児の責任感を育てることができる』、『動物の寿命を知ることで命の尊さを教えることができる』、『思いやりを育てることができる』などがあります」

ある幼稚園での調査によると、家庭でペットを飼っていない園児の割合は7割にも上るということです。そんななか、多くの幼稚園では、ペット飼育を行うことで園児に動物との触れ合い、思いやりや命の尊さを伝えたい、と考えているようです。しかし、70種にものぼる生態の異なる動物を飼育するうえで問題点も少なくない、と木場さんは指摘します。

「問題点としては大きく分けて2つあります。その一つは衛生管理の問題。動物の生態をよく理解しないまま飼育し、飼育動物の福祉の低下を招いているというケースも多く、人畜共通伝染病について正しい知識と理解が不足している場合もあります。二つめは繁殖管理の問題。小鳥やウサギなどの動物が繁殖しすぎたり、近親交配が進み、奇形や死産が増加している現状が報告されています。また、動物の毛に対してアレルギー症状を起こす子供がいるために教室内での動物飼育を断念せざるを得ないという園もありました。動物飼育をする意義や役割はほとんどの幼稚園で認めているものの、具体的な教育プログラムが用意されている幼稚園はなく、保育者が動物に上手に接することができないという状況もあります。それらの要因により、飼育動物の福祉が阻害されていることも多く、飼い方のマニュアル作成など早急に適切な環境づくりを行うことが必要だと感じました。まず、動物にとって快適な環境を提供し、そのうえで動物の習性を考慮した触れ合いのあり方を子供たちに教えることが幼稚園教育における動物飼育の意義と役割であると考えます」

この発表に対して、選考委員の太田先生からは「非常に重要な研究だと思います。これからどのような教育プログラムが必要か、ぜひ調査研究していただきたいと思います」という講評がありました。今後の研究成果に期待したいものです。

障害者乗馬の指標作りを目指し、
乗馬時のバランスのとり方を計測
研究テーマ:障害者乗馬活動における人と馬との関係に関する生理学的研究
続木雅子・慶野裕美・伊藤晋彦・三田勝己

この研究を発表したのは愛知県心身障害者コロニー・発達障害研究所に勤務する続木雅子さんです。愛知県心身障害者コロニー・発達障害研究所は心身の発達に障害のある人々のため、療育、医療、教育、職業訓練、授産などをサポートし、在宅の障害者や家族の相談・指導にも応じるほか、心身障害の原因の探求や治療と予防を図るための研究を行っている総合福祉施設。障害者乗馬はアニマル・アシステッド・アクティビティ(動物介在活動)のひとつで、医学的、教育的、社会的、スポーツ的役割から見ても効果的であると言われ、ここ数年、この活動を取り入れる施設が増えてきました。しかし、その効果のデータはほとんどなく、あくまでも記述のみというのが現状です。

そんな状況から、続木さんたちチームはこれまでにさまざまな方法で障害者乗馬の効果の評価法を作成し、そのいくつかを紹介しています。精神的効果を評価するためのかんたんな方法もHEIM scoreとして発表されています。これは自閉症の判断基準である小児自閉症スコアをもとに乗馬に適した対人関係、模倣行為、突発動作など10項目を選び、それぞれ5段階評価していく方法です。より客観的な方法としては、10項目のうち情緒発現を笑顔の現れ方によって5段階評価していくものも作成。これは運動前、運動中、運動後の顔をビデオで連続撮影し、ビデオキャプチャーから静止画像として表情を無作為に取り出し被験者が判定します。身体的効果を評価する方法としては脳性マヒの人の上体、手、足の状態をそれぞれ8段階に分けて、それぞれをさらに4段階に分け評価するHEIP scoreも作成し、乗馬療法が脳性マヒの人に大きな効果があることを証明しています。

今回の発表はこの一連の取り組みのひとつで、障害者乗馬の効果を評価する方法を確立するための途中経過報告です。障害者乗馬では、とくに脳性マヒの人が乗馬すると、体の緊張がとれ、リラックスできることが知られています。この状態を生理的信号で表すことにより、より正確に効果が測定できると考え、乗馬時の筋肉の生理的状態をとらえるため人と馬に加速度計と筋電図を付け、乗馬の際の計測実験を行いました。

「この調査では、人と馬の両方から加速度を同時計測し、人がバランスを崩したときの立ち直り反応の分析を行いました。計測は前後、左右、上下の3軸方向の小型加速度計を利用。筋電図は直径15mmの表面電極を用いて双極誘導し、これらの信号はテレメータ装置を介して無線方式で収集。馬の歩行には助走区間6mのあと、21mを計測区間としました。馬の歩行速度は常歩(約4km/h)と速歩(13km/h)の2種類を測定し、騎乗者は、乗馬経験のある健常成人3名、乗馬経験のない健常成人3名の計6名としました」

計測の結果、常歩時の馬の加速度は3方向とも複雑な変化を示し、人の加速度は比較的単純な波形が観測されました。また、経験者の方が上下方向の最大変化幅が少ないということもはっきり表れていました。人で加速度が減少した要因として、馬の動きを体幹で吸収し、頭部を一定の位置に保持したことが考えられます。一方、速歩では加速度の大きさは常歩の5倍。表れた数値から続木さんチームは、乗馬経験を積むことで馬の上下運動に合わせて人が後ろ方向に動くことで安定した速歩乗馬を行っていると推測しています。今後は、障害者のデータも計測し、健常者との違いや傾向、また乗馬する前と後との比較検討を行いたい、というのが続木さんたちの目標です。「障害者乗馬の効果の指標作りを目指したいと思います」と続木さんは言います。

なお、筋電図は衣服の擦れや大腿が馬の体幹に触れるため雑音が入り、正確な数値を検出するに至らなかったと言います。ただ、現在、問題点を解決する研究に取り組み、実用化を進めています。次回、改めてこの実験を行いたいという希望も報告されました。

実験には温和で従順、そして根気のある木曽馬を利用しています。かつて農耕や運搬で活躍した木曽馬ですが、今、役割を失っている実状があります。森先生は「絶滅の危機にもあった種。障害者乗馬という活躍の場を与えることは非常に意義のあることだと思います」、太田先生は「今、動物介在活動は注目を集めています。本当に効果があるのか、それを徹底的に検証していっていただきたいですね」と意見を述べられました。

社会学からの初めてのアプローチ! 
ペットは自我形成に影響を及ぼす他者となりうる
研究テーマ:人はペットに何を求めるのか? 飼主はなぜ飼犬に似るのか?
−日本におけるペットの存在意義に関わる社会学的考察−
新島典子

ペット関連記事のマスコミへの露出はここ数年急増しています。コンパニオンアニマルという言葉も定着してきました。人間と、その人間が飼育する動物との関係は変わろうとしています。東京大学大学院で社会学を学ぶ新島典子さんの研究は、そんな時代をとらえ、社会学・自我社会学の観点から人間とペットとの関係性やペット観を分析したものです。社会学によると、人間の自我は他者との相互作用から形成される、といいます。しかし、これまで自我社会学の分野では動物が自我形成に影響を及ぼす他者と見なされていませんでした。動物は、人間と言葉を通じたコミュニケーションがとれないため、自我形成に影響する重要な他者とは言えない、というのがこれまでの多くの主張だったわけです。ただ、言葉は必須とは言えないという先行研究も発表されています。言葉でのコミュニケーションがなくても、母親と乳児は情緒的な関係を築くことができます。これは見つめること、見つめられることにより感情的な絆が生まれるから、というのがこの研究の論拠です。しかし、動物を他者と認める研究はまだ1例も報告されていません。「動物も自我形成に影響する他者となり得る」という新島さんの研究は、自我社会学の視点からペットを研究するはじめての、画期的な取り組みなのです。

まず、新島さんはペットの存在意義についての調査を発表しています。雑誌論文記事の動物関連キーワード検索によると、96年度に95件だった動物という言葉は99年度679件、96年度に5件だったペットという言葉は101件と著しく増加。97年度まで1件のヒットもなかったコンパニオンアニマルという言葉も98年度以降、5件のヒットを記録しています。また、背景要因として現代社会についても言及しています。

「拡大・変容し続けている現代社会では、これまでの常識から想像できない問題的な状況にぶつかる機会が激増しています。そんな問題的状況のもとでは自分がある対象について有するリアリティが他者がもつリアリティとずれてしまう。同じ飼い犬に対してかわいい子供の一人と受け止めている人もいれば、近所との関係が悪くなった騒音の要因ととらえる人もいる。これが相互にぶつかるときをリアリティ分離といい、そこでは他者との相互作用から形成される自我は危機に陥りやすくなり、その結果、人間関係における疲弊感が増し、つらさ・生きがたさが募るというわけです」

新島さんは20〜70代のペットの飼い主・元飼い主30人に個別聞き取り調査を行い、その関係性やペットをどう見ているかという内容を分析しています。これまで、ペットを人間の代わりに溺愛する飼い主や、その反対に飼育動物の権利を考えずモノとして扱う飼い主などが何かと問題にされていました。しかし、調査の結果、「擬人化」「モノ化」だけでなく、飼い主とペットとの関係性は一般論的な理解が困難なほどさまざまでした。

「ペットの存在意義は、人により、状況によりさまざまなリアリティが同時に付与される可能性も少なくないことがわかりました。動物は動物として、人間の代替ではなく別個の存在としてとらえること、ペット自体を存在の他者として対等に見る関係性が必要だと考えます。人は動物に対して、社会的優劣とは離れ、素直に接することができるため、動物が自分に対して反応すると耳を傾けることができ、自我形成に多大な影響を受けることが考えられます。対等な存在感を持つ存在ゆえに、飼い主が飼い犬の行動を受けとめ、それによって飼い犬に似る、という局面もありえてくるのです」

新島さんの研究発表に森先生から「自然科学系の研究とは違い、研究の蓄積が大切な分野。期待できる、楽しみな研究だと思います」と講評がありました。

コンパニオンアニマルは
飼い主のストレスを減らしている!
研究テーマ:コンパニオンアニマルによるストレス緩衝効果の検討
種市康太郎

種市さんは早稲田大学で臨床心理学を専攻する博士課程の学生。これまで人のサポートが健康にポジティブな影響を及ぼすかという問題に取り組んできた種市さんですが、その一環で、この研究に着手することを試みました。研究内容は、飼い主にとってコンパニオンアニマルを飼うことがストレスを緩和する効果を持つかどうかというもの。種市さんは、「あなたが悩みを打ち明ける人は?」という質問を大学生に尋ねた際、何人かがペットの名前を挙げたことが研究のきっかけだったと言います。ペットを飼うことは心理的にいい影響を及ぼすと考える人は少なくないはずですが、実際に学問分野からこのテーマに取り組んだ事例はそう多くはありません。とくに、日本のなかで心理学分野からのアプローチは少なく、それだけに期待の大きい研究でもあります。

種市さんは、早稲田大学の学生239名へのアンケート調査と、「人と動物の関係」を測定する尺度(ACSS)作成を行いました。研究は、まずACSS仮尺度の作成からスタートしました。欧米の既存の尺度や獣医師、飼い主などの意見をもとに145項目の質問を作成し、分類を行った上で30項目からなる仮尺度を作成。そして、今年4〜6月、大学の講義時間内に調査しました。

「この結果、ペットからの情緒的サポート、ペットからの信頼、ペットとの交流という3つの因子(グループ)10項目から構成される尺度を作成しました。ACSS得点の比較を行うと、ペット飼育群(ペット飼育者または実家でペットを飼っている者)では1日平均の接触時間が長いほどACSS得点が高い傾向にあり、猫を飼育する者は犬などの他の動物を飼育する者より『ペットとの交流』得点が高い傾向にありました。また、ペット飼育の有無、ストレス出来事得点、ACSS合計得点によりストレス反応得点を予測する階層的重回帰分析を行いました。その結果、ペット飼育の有無とストレス反応の高低に関連は認められませんでした。その一方で、ACSS得点の効果はペット飼育の有無によって異なっていました。すなわち、ペット飼育群では、ACSS得点が高いほどストレス反応得点が低い傾向にありましたが、非飼育群では双方の間に関連は認められませんでした。以上のことから、実際にペット飼育を行うなかでペットに抱く愛着やペットとの交流がストレス反応低減と結びついている可能性が高いと考えられました」

また、種市さんはこの結果について、実は意外だったと言います。健康とペットを飼うことの相関関係については懐疑的な気持ちで取り組んだと率直な気持ちを語ります。その相関関係はペットの飼い主の主観的な判断や思いこみだと考えていたようです。「しかし、この調査分析の結果、私の疑いは否定されました」と結びました。

この研究に対して森先生は「非常に面白かったし、よく理解できました。このようなアプローチをさらに発展させてくれることを期待しています」と講評されました。

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