Letter from CAIRC
2000.10 Vol.4 No.4

建設・不動産・管理組合関係者の大きな期待を受け、
福岡、大阪でもシンポジウム開催!

−シンポジウム『集合住宅におけるペットとの暮らし』―

私ども「コンパニオンアニマル リサーチ」(略称CAIRC)は、全国でシンポジウム「集合住宅におけるペットとの暮らし」を開催しています。 昨年10月、320名を集めた東京でのシンポジウムを皮切りに、今年9月19日には博多東急ホテルで、10月5日には大阪東急ホテルで同シンポジウムを行いました。福岡・大阪会場ともに定員200名の客席がほぼ満員。大阪会場では立ち見席での参加者も出るほど多くの方々からの注目を集めました。

CAIRCは10月に設立3周年を迎えました。この3年間、私たちは、責任を持ってペットを飼うための啓発活動や都市生活のなかでペットが住みやすい環境づくりに尽力してまいりました。最近、「コンパニオンアニマル」という言葉は定着しつつあり、ペットが人に及ぼす精神的な効果への社会的認識も高くなってきています。ただ、98年2月、テキストブック「集合住宅で犬や猫と暮らす」を制作し、無料配布をスタートしたところ、このテキストに不動産関係各社からの問い合わせが相次ぎ、ペット可集合住宅を建設・管理するうえで、数多くの企業がまだ手探り状態にあることも強く認識させられました。

現在、大都市部で集合住宅に住む人の比率は60%を超えています。総務庁統計局の調査(98年)によると、全国平均の集合住宅の比率は37.8%、ところが、東京での集合住宅の比率は70.1%。大阪では66.1%、福岡市は70.7%にも上ります。今年、総理府が行った動物愛護に関する世論調査では、「一定のルールを守れば、集合住宅で犬や猫を飼ってもいい」と考える人が58%になり、前回調査(90年度)に比べると16ポイントも上昇し、集合住宅でのペット容認派は過半数を占めることになりました。逆に、飼ってはいけないと考える反対派は36%で前回より15ポイントも減り、集合住宅でペットを飼うことに対するコンセンサスはとれつつあると言えるでしょう。その一方で、ペットに対する捉え方は価値観など立場によって、違っています。現在、ペット可集合住宅は増加傾向にありますが、建設・管理するうえでさまざまな問題を抱えているのも事実です。昨年行われた東京でのシンポジウム同様、今回も、建設・不動産・管理組合関係者の方々を中心に数多くのみなさまと、人と動物が共生できる社会づくりについて考えてみました。


講演とビデオ上映で集合住宅におけるペット問題を検証し、
問題解決の糸口に迫る。福岡では190名、大阪では220名が出席

福岡、大阪でのシンポジウムではペット問題やペット可集合住宅にくわしい専門家4名の方々の講演、CAIRC制作のビデオ上映、専門家の方々と参加者との質疑応答も交えた4時間にものぼる中身の濃いものでした。

シンポジウムは正田陽一CAIRC会長の挨拶からスタートしました。
「身近に、心を通わせる生き物がいるということは心安らかな気持ちになるものです。私は動物園協会の仕事で、上野動物園へ行っています。ここで、面白い光景を目にしました。ゴリラが手の上に小さなものを乗せて、じっと眺めていることがありました。双眼鏡で覗いてみると、手の上に乗せているのはダンゴ虫。それを唇の上に乗せたり、頭の髪の毛の間に隠してみたり、ひとしきり遊んでいました。私は、しばらく見ていて、ゴリラも小さな生き物が身の回りにいることを楽しんでいるんだな、としみじみ思いました。人間はゴリラとは違いますが、やはり、小さな命あるものの存在が自分の周辺にいるということは大切です。それも犬や猫のような心を通わせることができる伴侶動物が身近にいるという意味、その存在感は限りなく大きなものがあると思います。それだけにペット可集合住宅建築にたずさわる皆さんのお力に期待しています」

基調講演となったのは、太田光明麻布大学教授による『動物たちがもたらす健康社会―効果と問題点』です。太田教授は阪神大震災当時、大阪・堺市に在住、ご自身もあの地震の揺れを経験されていますが、その後、あの大震災を通して人と動物の関係についていろいろな角度から研究されました。当時、動物を助けるために数多くの人々が力を注いでいました。神戸市で行われた調査の結果から太田教授は「被災者は動物と一緒に暮らすことで、なんとか心の安らぎを得ようとしました。動物がいたから生きられた、動物を生かすために生きる力を得た、という被災者は少なくありません」と説明されました。また、家畜化の歴史、人の健康に果たすペットの役割、また、ご自身が研究を進めていらっしゃる動物の地震予知能力など動物行動学の立場から人と動物のあり方についての講演がありました。

続いて、CAIRC制作のビデオ上映(20分間)が行われました。これは、国内初の公営ペット可集合住宅である神戸災害復興住宅や最新のペット可集合住宅のハード面、ソフト面の取り組みを取材したもので、住民のみなさんからもさまざまなお話をうかがっています。太田教授の講演とも合わせ、愛玩する存在としてのペットから人になんらかのサポートを果たしてくれるコンパニオンアニマルへ、人々の認識が変わりつつあることもお伝えできたと思います。

次は、建築家・金巻とも子先生による講演『集合住宅で動物と暮らすための建築面からの取り組み』です。金巻先生はペット可集合住宅の現場で活躍する建築家であり、実際に集合住宅に住むペットの飼い主でもあります。それだけに、共用スペースや住戸内の設備例など具体的なお話をうかがえる講演となりました。最近、ペット可集合住宅建設をアピールする手段として、足洗い場の存在をとりあげることがあります。しかし、金巻先生は「居住者に話を聞くと、実は、あまり使われていないことが多いようです。雨で濡れた犬の足は洗えるけれど、人間の土足の方がエントランスを汚しているということもあります」と言います。

「もし足洗い場をつけるなら、靴を脱ぐ場所、つまり、玄関にあるほうが便利です。それに、動物と暮らすための設備はあくまでも付加価値。不可欠なものではありません。最近は過剰に設備をつける傾向がありますが、設備をつけることで維持費もかかることになります。それもほとんどの設備が犬向けですから、一部の利用者しか使わない設備にお金をかけることはトラブルの原因にもなりかねません。設備があれば共生できるというものではありませんから、日本の集合住宅ではハードよりソフト面での整備が必要だと考えます」と、早急なソフト面での整備を訴えられました。


「集合住宅をペット禁止にすることは都市からペットを閉め出すこと」

続いて、井本動物病院院長井本史夫先生による講演『集合住宅におけるコミュニティづくり−ペットクラブ設立と動物飼育−』です。井本先生はご自身がお住まいの集合住宅に飼育者の会を設立した主要メンバーの一人。分譲団地の管理組合がペット禁止の規約を改め、月1000円の「家賃」支払いなどを条件にペット飼育の解禁を決定した新聞記事、総理府調査でペット容認派が過半数を占めるようになったという記事を例に取りあげ、ペット可集合住宅の現状について言及する内容で講演が始まりました。新聞記事の内容から集合住宅でペットを飼う基盤づくりが進んでいること、若い層の80%以上がペットに対して好感情をもっていて、ペットに対する価値観が変わってきていることを紹介し、ご自身の体験をもとに飼い主の会設立の必要性や運営のあり方なども説明されました。

「隣人間のトラブルから発生した事件をもとに、専門家が分析した人の心の流れを紹介します。まず、人はある事態に苦痛を感じると、特定の誰かの責任にしようとします。そして、救済を求めて相手に要求します。その要求が拒否されたとき、紛争が起きる、というのがメカニズムです。たとえば、犬の鳴き声がうるさいと感じたとき、飼い主を特定出来ないと、犬の飼い主すべてが悪いことになる。ところが、ペットクラブがあれば、クレームを受け付けてもらえる。それだけでも住民感情は違いますし、迅速な対応も可能になる。私の住むマンションの例で言えば、ペットクラブを作るまで年間約10件のペットに関するクレームが出ていましたが、設立翌年は2件、それ以降はゼロです。私たちのペットクラブはこの6年あまりの間に、敷地内外を問わず糞を拾う、他に、マンション全体で隣接するグリーンベルトを里山に変えるなど地道な活動を通してコミュニティづくりをしてきました。そんな活動が住民全体の信頼感を勝ち得たり、評価してもらうことになり、クレームゼロにつながったのだと思います。ペット問題はあくまでもペットがターゲットになっているだけ、お互いの交流や信頼感を養う必要があるので、そのサポートが必要だと思います。建築会社の方々には、住民が一生住みたいと思えるマンションを造っていただきたい、不動産会社の方には販売していただきたい、管理会社の方々にはサポートしていただきたい。住民がここでずっと暮らしたいというマンションをつくろう、という発想で取り組んでいただきたいと思います」と述べられました。

最後の講演は、吉田真澄元・同志社大学法学部教授による『集合住宅におけるペット飼育の法的課題』でした。吉田先生はこれまで担保法、不動産法、マンション法、ペット法を専門として教鞭を執っていらっしゃいましたが、この秋に退職。近々、ペット法専門の弁護士として新たなスタートを切られる予定です。

「かつてマンションと言えば、一時的な住まいと考えられていましたが、今、集合住宅は一生涯の生活の本拠ととらえられるようになってきました。集合住宅が50年もの間、住む場所だと考えると、人と動物が共生できる集合住宅をつくることは重要な課題と言えるでしょう。欧米と比較すると、日本は欧米に比べて、ペット飼育禁止を規約で決めている集合住宅が多いのが現状です。しかし、今回改正された動物愛護及び管理に関する法律の2条には人と動物の共生への配慮がうたわれています。つまり、現在の都市でのマンションの位置づけを考えると、マンションでペット禁止を行うことは実質的に都市からペットを閉め出すことになります。2条の基本原則の主旨にも反するし、共生は今後の人間にとって非常に重要な課題ですから、少し考えればどう対応すべきか見えてくるはずです」

と、話されました。そのうえで、集合住宅での諸問題は、「理想的には住民自治の理念を実現させるべきだが、現実的に考えると、入居後数年間は全体のコミュニケーション形成が困難なので、直接な管理規約を設けることは必要不可欠である」とされたうえで、管理費を一匹、一頭月1000円分払えば飼うことができるようになった新聞記事にも触れ、「一時的処置としては評価できるものだと思います。しかし、管理費はそれぞれの専有面積の広さに応じて払うもので、人数は関係ないはず。2人家族だろうと5人家族だろうと管理費は変わりません。なぜペットだけ1匹づつ払うのか? それに、子供の方が共有部分を使うはず。つまり、ペット飼育に危惧を持つ人に納得してもらうため考えられた一時的な処置と思われますが、法的に見て、けっして合理的な方法ではありません。一時的には必要かもしれませんが、根本的な処置ではない、そのことはわかっていていただきたいと思います」と法律家から見た解釈を述べられました。


「ソフト面の充実が今後の課題」
これが講師の方々の一致した意見


講演終了後は、4人の先生方をパネラーにそれぞれ40分あまりの質疑応答の時間も設けました。両会場とも参加者からさまざまな質問が飛び、建築・不動産・管理組合関係各社のペット可集合住宅建設・管理によせる思いが伝わってくるものでした。

今回、福岡会場には後援団体の一つでもある福岡マンション管理組合連合会杉本典夫会長も参加されていました。

「今、福岡でもペット問題やペット可集合住宅のニーズは増えていますから、最初、このシンポジウム開催をうかがったとき、現状をとらえた対応だなと思いました。このシンポジウムに出席し、それぞれの先生方の立場からの講演をうかがい、さらに深い知識が深まって良かったと思います。最近も、ペット飼育不可のマンションに住む方から『ペット飼育に関してアンケートを配られたんだけど、どういうことなのか?』と質問を受けました。もしかすると、このシンポジウムの波及効果かもしれません。ペット飼育禁止は世の中の流れとしておかしいですから、きちんとコンセンサスをとったうえでペット飼育が可能になると、マンションでの生活にもっと潤いが出てくると思います」

会場で行ったアンケートで参加した感想を見ていくと、参加者のひとりは「設備面でのハードの充実がモラルアップにつながると考えていましたが、ハードはペットの特性に合わせてつくるべきで、ソフトの方が問題だということがわかりました」(福岡会場・建設業)と答えていらっしゃいました。また、「ビデオを見て、行政でここまで取り組みを進めていることがわかり、今後の方向性がはっきりわかった。阪神大震災後の精神ケアにペットが果たした役割、ビデオの中で紹介された『ペットは家族の一員』という被災者の方々の意見を聞いたことで、集合住宅におけるペット飼育の意義を確認しました」(大阪会場・建設業)と、ビデオに対しても非常に高い評価をいただきました。私どもも手応えのある反応に嬉しく思いました。ただ、「もっと具体的な事例がほしかった」(福岡会場・管理)という意見もありました。今回は人とペットの共生を目指すことを主な目的としたシンポジウムでしたので、具体的な内容に言及できない面もありましたが、これからの課題としてよりニーズの高いテーマに取り組み、セミナー開催などで具体的なアドバイスを行っていきたいと考えています。

このシンポジウム開催が、建設会社、不動産会社、管理会社、管理組合の方々のこれからのマンション建設やマンション運営の一助になることを願っております。私ども「コンパニオンアニマル リサーチ」はこれからも、人とペットの共生の実現を目指し、さまざまな面から取り組んでいく所存です。


* このシンポジウムは、福岡マンション管理組合連合会、財団法人マンション管理センター、社団法人日本獣医師会、社団法人大阪府獣医師会、社団法人大阪市獣医師会、社団法人福岡県獣医師会、社団法人日本動物保護管理協会、集合住宅における動物飼育を考える協議会の後援で開催いたしました。

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