Letter from CAIRC
2000.11 Vol.4 No.5

CAIRCが国際的組織、IAHAIOに加盟!
「人と動物の関係学」への貢献が国際的に認められる

10月、CAIRCがIAHAIOに正式メンバーとして承認された

私ども「コンパニオンアニマル リサーチ」(略称:CAIRC)は、この10月、「人と動物の関係学」分野の国際的組織であるIAHAIO(International Association of Human-Animal Interaction Organizations 人と動物の関係に関する団体の国際組織)に加盟いたしましたので、ここにご報告いたします。このたびの加盟承認は、IAHAIOの目標と、私どもCAIRCの活動の方向性が合致していること、CAIRCの行ってきた活動が「人と動物の関係学」分野に貢献していることなどを評価いただいた結果だと考えます。IAHAIOはこの分野における公式の国際的非政府組織(NGO)として世界的に知られる機関で、98年に開催されたIAHAIOプラハ大会はWHO(世界保健機構)も後援に名前を連ねています。日本ナショナルメンバーは、社団法人日本動物病院福祉協会(JAHA)が加盟しています。

今、「人と動物の関係学」の学問分野は、非常に注目を集めています。世界各国でコンパニオンアニマルが人間に与える社会的、心理的、生理学的な効果が明らかにされてきました。私どもCAIRCはIAHAIOに加盟したことを好機に、これまで以上にこの学問分野の発展に寄与したいと考えております。

なお、『第9回人と動物の関係に関する国際会議』は2001年9月13〜15日、ブラジル・リオデジャネイロで行われます。この会議での論文募集要項については、JAHA、もしくはCAIRCへお問い合わせください。

IAHAIO会長、デニス・ターナー博士が来日し
CAIRC主催プレスセミナーが開かれる


今回、CAIRCではIAHAIO加盟を機にIAHAIO会長デニス・C・ターナー博士をお迎えし、11月2日、ホテルニューオータニでプレスセミナーを開催いたしました。ターナー博士は74年に米国ジョンズ・ホプキンス大学で学位取得された動物行動学者です。現在、スイス・チューリッヒにある応用動物行動・動物心理学研究所(I.E.A.P)所長、イエムト(IEMT)コンラッド・ローレンツ記念行動学研究所所長も務められ、チューリッヒ大学動物学研究所でコンパニオンアニマルの行動学の研究を続ける一方、同大学獣医学部で教鞭を執っていらっしゃいます。まず、博士はこの学問領域で研究が進む画期的な報告をいくつか紹介されました。

「この10年間、『人と動物の関係学』の研究が進み、これまで想像されていた以上にコンパニオンアニマルは人間に大きな効用をもたらすことがわかってきました。たとえば、私たちはペットに話しかけたり、なでたりすることがありますが、その行動は健康面に大きな作用をもたらします。人間はくつろいだ状態になると、顔や声にその変化が表れます。脈拍がゆっくりする、血圧が下がるという状態にもなりますが、ペットと触れ合うことでそのすべてが反応し、非常にくつろいだ状態になることがわかってきました。

その一方、リラックスした状態になるのは、過去において、その人とペットの関係性がよかった場合に限られるという結果も出ました。私の元同僚が研究した結果によると、もっともくつろいだ状態になるのは、他人のペットではなく、自分のペットに触れているときだということもわかりました。つまり、人間とペットの関係性には明らかに何かパーソナルな絆が存在するというわけです。

ここ数年間に発表された画期的な研究報告を数例ご紹介します。イギリスの医学雑誌でジェームズ・サーペル教授は、『健康上、軽度の問題を抱える人たちを対象に調査した結果、ペットを飼うことで、多くの人たちの症状が改善される』と発表しました。ペットを飼い始めることで、QOL(Quality of Life)の指標が上がるという結果も報告されています。とくに、頭痛、花粉症、目の障害、腰痛、背中の痛みなどが改善傾向にあるようです。

次は、5年前、オーストラリアで発表された大規模な調査の結果です(ワーウィック・アンダーソン教授)。これは6000人以上の男性を対象にペットの飼い主か否かということと心血管疾患のリスクファクター(特定の病気にかかる可能性を増大させる生理的、行動的、環境的な因子)を調査し、比較分析したものです。ペットの飼い主と飼い主でない人を比べると、喫煙や肥満、運動量などのリスクファクターの値はどちらも違いがありませんでしたが、コレステロール値、血漿トリグリセリドにおいて、飼い主の方が飼い主でない人より低いという分析結果が出ました。

また、同じオーストラリアでは、ペットの飼い主の方が飼い主でない人より医者へ行く回数が少ないという研究結果もあります(ゲリー・ジェーニングス教授)。比率として、犬の飼い主は8%、猫の飼い主は12%も少なく、薬を飲む頻度もペットの飼い主の方が少ないということです」

高齢化社会に突入した今、軽度の疾患をかかえる人々の症状が改善される、ペットを飼うことで病院へ行く回数が減る、コレステロール値、血漿トリグリセリドが低くなる、などの研究成果を生かすことができれば、ペット飼育を通じて人々の健康をいっそうサポートすることも、医療費を軽減させることも不可能ではないでしょう。


「76%の猫の飼い主が
『自分の猫は、自分が理想とする猫だ』と満足している」

続いて、ターナー博士はご自身の研究について説明されました。

「私は、動物行動学的なアプローチと心理学的なアプローチを組み合わせることで、『人と猫の関係について』研究してまいりました。最近の研究でその結果をご紹介しましょう。

まず、数百人の猫の飼い主に対して、『好奇心』、『接近度』など31の項目をもとに、飼い猫に対する評価、および、飼い主との関係についての評価を依頼しました。それぞれの項目は1本の線で表し、その片側の端を『非常に強い』、もう一方の端を『非常に弱い』とし、その線上に、飼い猫の値の印をつけ、評価してもらいました。自分が理想とする飼い猫についても同じ31項目についてチェックしてもらいました。直線の片端からそれぞれの印の位置までの距離を測ることによって、現実(今、飼っている猫)と理想のギャップを量的に評価することが出来るわけです。さらに、この31項目のうち18項目を選び、分析を進めた結果、飼い主(自分自身)と猫との関係と、飼い主と理想的な猫との関係をほとんど同様に評価した人の割合は全体の76%でした。これは、過半数以上の飼い主が自分の猫との関係に十分満足していることを意味しています」

たとえば、その項目の一つ、『愛情レベル』では、飼い主と猫が「相思相愛」の関係であるかどうか、飼い主が想像してチェックするわけですが、猫が自分を好きであると思えば思うほど、飼い主の猫への愛情も高まるという結果が出ています。さらに、清潔さ、猫用トイレをきちんと使用すること、好奇心が強いこと、遊び好きであること、行動予測がつきやすいことも飼い主の愛情レベルの高さとつながります。猫が飼い主へ抱く愛情を想像した場合、触れ合いを好んでいると思われる度合い、飼い主への接近度、行動予測がつくこと、清潔さ、人なつっこさの程度とも相関関係を示しました。これらは、猫が持つ飼い主に対する愛情の深さを評価するときの主軸になるものです。

 
「人と猫の関係は『ギブ・アンド・テイク』の関係」

「私の研究目的の一つは、猫と人間との関係の質を測定するための動物行動学的な方法を確立することです。まず、双方がお互いの交流をいつ思いつくか、いつ望むかということをそれぞれ観察。猫と飼い主について別々に、それぞれが触れ合いをアプローチして成功した比率を計算しました。それから、これらの数値をすべてのペア(飼い主と猫)の交流時間合計と相関させてみました。その結果、猫からアプローチした場合、相関関係はありませんでしたが、人間からアプローチした場合、はっきりしたマイナスの相関関係が認められました。つまり、人の方から猫との交流を仕掛けた場合、交流時間は短くなるということです。飼い主は猫との交流に成功していると思いがちですが、猫との交流時間を長くしたいのであれば、交流しようと試みるべきではないことがわかります。猫の方から交流にいたった割合と、全ペアの交流時間の合計にはプラスの相関関係が見られました。猫から触れ合いをアプローチしてそれが実現する割合が多いほど、人間と猫との交流時間は長くなるということです。飼い主は自分の方が猫との関係性をコントロールしているように考えているとしても、交流の発生頻度やその時間を決定しているのは明らかに猫の方です。

また、各家庭を訪問し、飼い主、もしくは猫の方から交流を望んだとき、どちらが実際に交流を開始したかについて、飼い主数百人、合計6000回以上に及ぶ記録をとりました。その結果、猫からの交流の意思に飼い主が応じていれば、猫も飼い主が交流を望むとそれに応じ、逆に、飼い主が猫の意思に従わなければ、猫の方も飼い主からの交流の意思に従わないということがわかりました」

つまり、飼い主が猫から触れ合いを要求されたとき、応えれば応えるほど、猫も飼い主の希望に応じるようになるということです。人間と猫との関係は、愛玩動物への一方的な関係性ではなく、ギブ・アンド・テイクの関係だ、とターナー博士は言います。本当の意味の『パートナーシップ』として話す必要があるわけです。


「飼い主が落ち込んでいるとき、猫は飼い主の近くにいてくれる」

続いて、ターナー博士は、飼い主の心の健康を追求した研究も紹介されました。

「わたしは、最近、共同研究で、猫と暮らす男女100人の独身者と、かつて猫を飼っていたが現在は飼っていない31人の独身女性について調査しました。最初に、飼い主のそのときの感情を調べるための心理学的調査用紙に記入してもらいました。その調査用紙は形容詞のリストでつくられており、『気分』に関する13の項目からなっています。その調査を行った後、飼い主と猫の相互交流的な行動を一晩ずつ観察し、その晩の飼い主の気分が猫への行動にどのように関連していたか、また、飼い主に対する猫の行動にどのように関連していたかを評価しました。男女の飼い主ともに、『活動したくない』、『傷つきやすい』、『恐怖心を感じる』、『落ち込んでいる』といった気持ちが強いときに、猫に対して、より親密な行動を示しました。

さらに、飼い主が落ち込んでいるとき、猫はほとんどの場合、飼い主から離れませんでした。そして、親密な交流がスタートすると、飼い主が落ち込んだときには猫がいつもとは異なった反応を示しました。とくに、飼い主に頭と脇腹をこすりつける頻度が増し、その行動は、観察した2時間のなかで飼い主の気分がもっとも落ち込んだとき、非常に多く見られました。

現在、猫を飼っている女性と以前、猫を飼っていた独身女性の気分を比較してみると、猫を飼っていない女性の方が『活動したくない』、『傷つきやすい』、『恐怖心を感じる』、『落ち込んでいる』といった気持ちをより感じていることも示されました」

とはいえ、猫は人間のパートナーの代わりになるかといえば、そうとは言えません。330人の女性を対象にした心理学的データの分析から、対象者たちが人から受けると感じる感情的サポートと、猫から受け取っていると感じる感情的サポートのあいだに何の関係性も認められませんでした。ネットワークが広く、人からの精神的サポートを受けていると思われる人たちも、孤立しがちなネットワークの狭い人たちも、同様に猫からの精神的サポートを受けているという結果が出ました。

これらの結果から、猫は社会的ネットワークにおいて、人間の代わりをしているわけではなく、「追加」的サポートを担っている存在だという結論が導き出されました。過去の経験との関係も大きく作用しますが、猫が好きな人にとって、猫を飼うことは健康によい働きをしていると言えるわけです。つまり、ただ可愛がるだけでなく、それぞれの性格を受けとめ、それぞれのニーズと要求を尊重すれば、ペットはその家庭を温かく、心休まる場所にしてくれます。それだけに、獣医、動物行動学者、動物心理学者など専門家も、猫の飼い主など一般の方々もコンパニオンアニマルに対する正しい情報を持つことが大切です。

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