Letter from CAIRC
2001.3 Vol.5 No.1

集合住宅におけるペット飼育
既存の集合住宅が抱える問題を考える

「あいまい規約」をもつ既存の集合住宅でのペット飼育は?

今、ペット対応型集合住宅は急増しています。ペット飼育のためハード面の対応を行った物件も少なくなく、都市生活の中で人間と動物の共生は徐々に進んでいることがよくわかります。ただ、その一方、既存の集合住宅に目を向けると、共生はスムーズに進んでいるとは言えず、私ども「コンパニオンアニマル リサーチ」(略称CAIRC)にもペット飼育者の方々、管理組合の方々から数多くのお問い合わせやご相談が寄せられています。とくに難しいのは、動物飼育に対してあいまいな表記のある管理規約をもつ集合住宅の居住者がこの規約の意味をどう受けとめるかという問題です。既存の集合住宅はこの「あいまい規約」が多く、受けとめ方の違いで意見が対立するというケースが続いています。お問い合わせをいただいた中には、居住者が周囲とのコンセンサスをとったうえで、ペット飼育に向けペット管理運用規定を施行した例もあれば、非常に複雑な問題に発展している例もあります。今回はその2つの例を紹介しながら、今後の集合住宅のあり方を考えてみたいと思います。

よりよいコミュニティづくりの一環として
あいまい規約に取り組んだ既存マンション


「管理規約に『ペット管理運用規定』が追加されたのは2000年4月。『飼育を考える会』もそれからのスタートですから、まだこれから雛形をつくろうという状態です。飼育者が『ここは堂々とペットが飼えるのよね』と甘えてしまうのではなく、責任を持った飼い主だけがペット飼育を許されていることを意識し、今後もいかに緊張感を保っていくかということが私たちの大きな課題です」

というのは、横浜・本牧にある「パークシティ本牧」で「飼育を考える会」の世話役を務める宮島誓子さん。8階建て、12階建ての9棟の建物からなる総戸数666戸の分譲マンションで、会員数は66名、犬約70頭、猫約20頭が登録されています。

「管理規約があいまい規約だったので、それを自分たちなりに解釈して、それぞれペットを飼っていたんですが、当時、まったく苦情がないわけではありませんでした。あいまい規約は、私たち飼育者にとって、非常に足元の危うい状態だということも気になるところでした。そんなことから、6年前、私たち犬の飼い主有志で、飼育者の側から飼育を考える会を作りたい、と自治会や管理組合に申し出ました。すぐに承認されたのではなく紆余曲折がありましたが、ゆっくり積み重ねてきたことがよい結果を生んだのかもしれません。最初は理事会も『正式に飼育が認められれば、ペットの頭数が増えるのでは』と答えを保留していたんですが、そのときは、私たちで犬の増加と何が関係しているのか調査をして、その結果を理事会で発表しました。なぜ犬を飼ったかいろいろ伺ってみると、犬の増加と関係しているのは子供の数の増加だということがわかりました。コミュニティとしてできあがっていくなかで、子供の心を育てる一環として犬を飼い始めた方が多いという調査結果が出たわけです。ちゃんと考えて飼い始めた、ということが伝わり、まず一つ納得してもらいました」(林さよ子さん)

とはいえ、ペットが好きな人がいるのと同様、ペット嫌いな人もいるというのはどこのマンションでも同じです。97年に行ったアンケートではペットに対する拒否反応もあったようです。ただ、苦情があがったときに自分たちの権利を主張するのではなく、自分たちの側の責任を考え、飼育者のマナー向上を呼びかける、その繰り返しを徹底したことが功を奏したとも言えそうです。また、ペットの飼い主のコミュニティ作りに寄せる働きかけが周囲から認められたという側面もあるでしょう。一昨年夏、異常乾燥が続いた時期、マンションの植栽の水やりを続けたのは犬の飼い主たちのグループでした。彼らはコミュニティ作りのために、きちんとしたマナーで犬を飼う、きちんとしつける、という姿勢、そして、ペットは家族の一員=コンパニオンアニマルである、という情報を発信し続けたと言います。

「話がうまくかみ合わなかったこともあります。でも、必ず自分たちの方から歩み寄って、解決の糸口を探るようにしました。後ろにペットの存在があるので、我慢をしたという面もありますが、対立してしまっては何の解決もできない。そうやってこちらから働きかけることによって、相手の気持ちもほぐれてくることがわかりました」(大利優子さん)

管理組合では各棟のエントランスに苦情・意見・要望などを記入できる用紙を備え付け、苦情などの処理に当たっています。該当する飼育者には苦情連絡書に記入して手渡したり、該当者不明のときは掲示板に貼りだしたり、状況によって対応は違います。アドバイスを行うだけでなく、専門家に連絡する手配をすることもあります。

現在、「飼育を考える会」の世話役は前出の宮島さん、林さん、大利さん、それに小林明子さんの4名。会長を立てないことも「組織図をつくりたくない」という4人の方の考えによるもの。理事会も「あの4人が納得しないことは飼育者も納得しないだろう」と捉えているようです。

「ありがたかったのは理事長を始め、理事の方々がいろいろペットについて勉強してくださったこと。うちのマンションのペット管理運用規定には頭数制限、大きさ制限がありません。細則を決めるときは考え方の違いでしばらく平行線だったんですが、理事会側から『じゃ、専門家の意見を聞こう』と言って、『集合住宅における動物飼育を考える協議会』に講演を申し込んでくれました。このセミナーが行われてから、非飼育者の方々にも大切なことは頭数や大きさじゃない、ということを理解してもらえるようになりました。『誰にでもわかる細かい細則が必要では?』という意見が出たときも、理事長の方が『ルールというのは絶対的なものではなく、相対的なもの』とおっしゃいましたし、『もめるのはコミュニティとして恥ずかしいことです』と考えていらっしゃる。このマンションをよくしていこうという気持ちがみんなの中にあったから今のかたちになったのだと思います」(小林さん)

住みやすいコミュニティをつくる、ということは住民みんながお互いの立場を理解するという歩み寄りが不可欠です。「飼育者の会」の世話役4名が力を尽くされたこともさることながら、理事会がペットの飼い主の立場をきちんと理解し、会設立のためのサポートを行っていたことも成功につながった大きな理由だったに違いありません。

 
あいまい規約の判断をめぐって意見が対立
飼育者1人ずつに対して、飼育の是非を採決したケース


一方、大阪府吹田市のある分譲マンションではあいまい規約の解釈の違いが大きな問題となり、結局、2000年10月に行われた臨時総会でペット飼育禁止を決定しました。その後、それだけではなく、マンション内で飼われているペットは個別に是非の採択が行われ、同マンションに住むK・Sさん(匿名)が飼う猫は、3月までに処分するよう申し渡されてしまいました。ここは築3年、総戸数38戸の分譲マンションです。ペットの飼育者は4名で、K・Sさんを含めて、猫を飼う家庭が3軒、犬を飼う家庭が1軒あります。K・Sさん以外の猫の飼育者は入居前に「今、猫を飼っているんですが、そこでは飼育可能ですか」と不動産会社に問い合わせていましたが、K・Sさんはあいまい規約をペット可と受け取り、確認せずに飼い始めました。入居後、1年半はなにごともなかったマンションですが、この入居時の対応の違いが問題になりました。

「管理規約には『他の居住者に迷惑、または危害を与える恐れのある動植物等を飼育、または研究してはならない』という一文があります。しかし、犬や猫といった表現はありません。私たちのケースは猫を室内飼いしているので、それには当たらないと思っていました。でも、犬の苦情が何度かあって、ペット飼育について反対意見が出てくるようになりました。居住者の中に犬が生理的に嫌いという方がいて、その方は不動産会社から、このマンションがペット不可だと聞いたから転居してきた、と言うことでした。この問題は総会で話し合われ、一代限り飼育可にする、犬と猫の是非を別々に問う、などさまざまな意見が出ましたが、結局12月の総会で多数決の採決を取り、入居前に不動産会社に確認をとったか否かで2軒はペット飼育可、確認を取らなかった2軒はペットを処分するか、退去せよ、と決まってしまいました。犬の飼い主は転居を選ばれ、すでに転居先も決められたようです。販売担当者にペットを飼育していることを言ったか、言わなかったかという本来、入居前の問題が採択基準になってしまったということが納得できません。また、採決の方法が、個人の飼育の是非を対象にしていることも民主的ではないと思います」(K・Sさん)

大阪の例は、あくまでもアドバイスを求めてご連絡いただいたK・Sさんから伺ったお話です。他の居住者の方にはまた別の言い分があるでしょう。ただ、2つの対照的な例を比べてみると、コミュニティに対する住民の意識が違うように映ります。成熟したコミュニティを形成していれば、「マンションというコミュニティで楽しく暮らす」方法の一つとして、ペット飼育を考えることができます。しかし、コミュニティの平安は、問題を排除するだけでは維持できません。お互いの信頼感や助け合う気持ちを喚起してこそ良いコミュニティといえるでしょう。何かの問題で対立するコミュニティは他の問題でもぶつかる可能性を秘めていると推測できます。

東京都住宅局は、この2月、ペット解禁に関する検討会を設置し、都営住宅でのペット飼育解禁に向けて動き始めました。2002年に入居開始予定の都市基盤整備公団の賃貸住宅「潮見駅前A地区」(仮称・東京都江東区)は、小型犬や猫などのペットが飼育できるペット対応型集合住宅です。横浜市内にある同公団の分譲団地では住民でつくる管理組合がペット禁止の規約を改め、1匹につき6000円の「敷金」と月1000円の「家賃」の支払いなどを条件に、ペット飼育が解禁されました。

CAIRCが設立されてから3年半、ペット飼育に対する社会の理解は年を負うごとに深まっています。そんな状況にあるだけに、大阪のケースには私たちも深く心を痛めています。この例は、人と動物の共生に向けた活動の難しさと、その啓発活動がまだまだ足りないことを痛感するに十分です。しかし、都市生活者の過半数が集合住宅に暮らす中、集合住宅からペットを締め出すということは都市からペットを締め出すということに他なりません。昨年度、総理府が調査した「動物愛護に関する世論調査」では「一定のルールを守れば飼ってもいい」と答えた人が58%になり、集合住宅でのペット飼育について過半数が容認していることが明らかになりました。これは、10年前に行われた同調査の結果と比べると16ポイントもの増加です。私どもCAIRCは大阪のケースの今後の動向を見守ると同時に、人と動物の共生に向けてよりいっそうの啓発活動を続けていきたいと思っています。


次回のニュースレターでは
猫の屋内飼育啓発活動を特集します

CAIRCは都市部に住む猫の飼育者の皆様に猫の屋内飼育を推進しています。集合住宅で猫を飼う場合、屋内飼育を実行することで、トラブルを避けることが可能になります。猫も屋内飼育に適したペットだと言えるでしょう。屋外に出したばかりに、不慮の事故や病気になるケースも少なくありません。とはいえ、猫の自然な行動を妨げると考えて、屋内飼育に踏み切ろうとなさらない方も多いようです。そこで、次回のニュースレターは同じように猫の屋内飼育を推進する東京都の取り組み、動物行動学者、デニス・ターナー博士からのアドバイス、実際に猫の屋内飼育を行っている方々にお話を伺い、紹介したいと思います。
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