Letter from CAIRC
2001.5 Vol.5 No.2

猫を感染症、交通事故から守り、
近隣とのトラブルを避けるために
集合住宅では猫の屋内飼育をおすすめします

屋外は危険がいっぱい
屋内飼育で猫を守りましょう


かつて、中国から愛玩動物として伝来されてきた猫。すでに私たち日本人と1200年以上も暮らし、すっかり日本の風景に溶け込む、なくてはならない「友人」となりました。2000年にペットフード工業会が行った調査によると、飼い猫の数は全国に約800万頭、実に6世帯に1世帯は猫を飼育しているという報告があります。その一方、犬とは違い、飼い主のいない猫も少なくなく、東京都の調査では、11万頭もの野良猫がいるという報告があります。また、処分のために保健所に持ち込まれる猫の数も年間1万2015頭。その90%が生まれたばかりの子猫だということです。交通事故でも年間2万4000頭もの猫が死亡しています(平成10年東京都調査)。

現在、コンパニオンアニマル リサーチ(略称:CAIRC)は集合住宅に住む猫の飼育者の皆さんに、猫の屋内飼育の実践を呼びかけています。飼い猫を屋外に出すことで他の猫から病気が感染することもあれば、他人の家の庭で糞尿をすることもあります。また、道に急に飛び出して交通事故に遭うことも少なくありません。そんなトラブルから猫を守るためのもっとも適した方法が屋内飼育です。今、戸建て住宅の居住者で猫を飼育している家のうち約6割、集合住宅の居住者も3割が屋内外で猫を飼うという方法をとっています(東京都衛生局調査・1998年)。屋内飼育はまだまだ定着していないようです。今回は、専門家の方々や実際に屋内飼いで猫を飼育している皆さんにお話を伺い、猫の屋内飼育について考えてみることにします。

「屋内飼育は集合住宅で猫を飼うマナーだと思います」

江戸川区の分譲マンションに住む岡本雪路さんは娘さん2人との3人家族。18歳になる雌猫のケイを飼っています。

「もう高齢ですから、運動量も減っていて、昼間は一日眠っていることが多いですね。でも、猫は犬ほど運動する必要がありませんから、ケイが子供の頃から屋内飼育をしてきました。集合住宅でご近所と仲良く暮らしていきたいと考えるとき、屋内飼育がいいと思います。空気清浄機を部屋ごとにつけて清潔に保てば、猫の臭いも問題ありません。それに東京の場合、屋外に出すと病気をもらう可能性が大きいのではないかと思います。一度、ケイが屋外に逃げ出したことがあるんですが、そのあと、ノミ退治の必要があって大変でした」

また、足立区の分譲マンションに住む中嶋麻子さんはご主人と1歳になる楓子ちゃんとの3人家族。虎太郎(雄猫・3歳半)、こゆき(雌・3歳)の2頭の猫を飼っています。

「このマンションに転居してきた後、虎太郎を飼い始め、その半年後にこゆきを飼うようになりました。屋内飼いに決めたのは、それが都会で暮らすマナーだと思っているから。それに、猫を飼うときにしつけに関する情報を友人から聞いたり、本で調べたりしたんですが、『猫はなわばりをつくる動物だから小さいときからその空間で育ててやれば、ストレスは感じない』と言われたことも決め手でした。ただ、1匹だけだと猫同士の社会がないのが気になって、もう1匹飼うことに。2匹になってからは、いつでも一緒。寝室には猫を入れないようにしているんですが、虎太郎しかいなかった頃、夜は寂しそうで、朝起きると必ず寝室のドアのところで待っていました。でも、こゆきが来てからは、2匹で仲良く遊ぶようになり、ドアの前で待つことはなくなりましたね。今はうまくバランスがとれていると思います」


東京都、北海道など行政も
猫の屋内飼育を積極的に推進


猫の屋内飼育を積極的に推進している行政も増えてきました。東京都では平成11年に答申をまとめ、本格的に猫の適正飼育推進策としてアピールしています。東京都衛生局生活環境部獣医衛生課、松井政友動物管理係長にこの取り組みと屋内飼育の意義についてうかがいました。

「この推進策のなかで飼い猫への対策としては3つのポイントがあります。飼い主責任を明確にするため身元表示をすること、不妊去勢手術を行うこと、そして、猫の屋内飼育を行うこと。よく『屋内飼育は猫の習性からいってかわいそう』と言われますが、猫は屋内飼育での問題が少ない動物です。猫を屋外に出すのは、自由に遊ばせて、ネズミ捕りをさせてきた伝統的な飼育形態が続いてきているからです。でも、飼い主の方にはペットを飼う責任を自覚していただきたいと思います。屋外に出すことによって、よその庭を糞尿で荒らしたり、自由繁殖が行われたり、周囲とのトラブルをつくっているわけです。屋外に出せば、なわばり争いに巻き込まれますから、噛み合いによって感染症にかかる場合もあります。交通事故の危険もあります。屋内飼育の方がずっと健康で、長生きができます。飼う以上、大事に飼う、それが飼い主としての責任だと考えていただきたいですね。行政も民間団体と協力し、適正飼育を推進する環境を整えるためさまざまなアプローチを行っています」

北海道では「北海道動物の愛護及び管理に関する条例」が3月30日に公布され、10月1日に施行されることになりました。この条例は、猫の室内飼育を努力規定として盛り込んだ他に例を見ない内容です。北海道環境生活部自然環境課、石島力動物管理係長にお話をうかがいました。

「この条例ができた背景としては、道外から移入したペットの遺棄によって、野生化したアライグマが生態系を壊し、農作物への被害をもたらすという緊迫した問題がありました。それに犬や猫の苦情も年間1万件以上あったこともあげられます。中途放棄などペットの不適切な取り扱いによってトラブルが数多く発生していたことから飼い主の責任を明確にする必要があると考え、『移入動物の届け出制』と『猫の飼養』を規定し、猫については『猫の飼い主は、その飼養する猫について、疾病の感染及び不慮の事故を防止し、猫の健康及び安全を保持するため、室内での飼養に努めなければならない』と盛り込みました。今後も室内飼育の推進をアピールしていきたいと考えています」

ただ、猫の習性から屋内飼育を危惧する意見が寄せられることもあります。前出の中嶋さんの場合も屋内飼育を実践しているものの、不安があるといいます。

「ときどき、猫が窓の外を見ていることがあって、外に出たいのかな、と思うこともあります。運動不足になっているのではとも思います。閉じ込めていることになるのかな、と心配ですね」

ペットの行動学に詳しく「猫の言いぶん」(講談社)など猫の行動に関する著書ももつ小暮動物病院、小暮規夫博士は「猫は集合住宅での屋内飼育に適したペット」だと明言されます。

「獣医師の立場からは、猫エイズのようにワクチンのない感染症から猫を守るには屋内飼育しかないと考えています。また、交通事故、猫同士のケンカによる怪我の化膿も大きな問題です。寿命も屋内飼育では平均10年以上になりますが、野良猫などは5〜6年と言われています。また、猫はもともと単独行動をとる動物です。野生の状態でもせまい行動圏で生活していますから、飼いはじめから屋内飼育に徹していれば問題ありません。肥満に関しても、動かないときはあまり食べないなど自分でコントロールが可能なんです。去勢手術をしていない場合、雄が窓の外を見ているのは雌を探している性的興味からですが、去勢手術を行っている場合は視野の中の動きのある景色ととらえていることが多く、心配する必要はありません。ただ、猫は夜行性で、立体的に行動しますので、夜、走りまわったり、棚の上に飛び乗ったりということを叱らないで、一緒に遊んでやるようにしてください。猫はその家の人間を母親のように受けとめていますからコミュニケーションをとることも大切ですよ」

来日経験も多く、猫の研究でも知られる動物行動学者で、IAHAIO*会長のデニス・ターナー博士も猫の屋内飼育について次のようにアドバイスされています。

「私はスイスに住んでいますが、スイスも東京と同様、集合住宅の比率が70%を超えていて、地元でもよく猫の屋内飼育について尋ねられます。私は、猫に必要なツメ研ぎや食事、水、自分だけのスペースをつくった状態で、子猫のときから屋内で飼育していけば、猫は健康で幸せに過ごすことができるんですよ、と答えています。東京など都会の屋外は交通量も多いので、猫の健康や幸せを考えれば、屋内飼育の方が賢明だと言えるでしょう」


人とペットが共生できる社会づくりのためには、ペットにとって健康で、長生きできる環境も必要です。他の人に迷惑をかける行為も防止しなければなりません。一人一人の飼い主が責任を持ってペットを飼うこと、それが猫の場合は屋内飼育だといっても過言ではないでしょう。

* IAHAIO(International Association of Human-Animal Interaction Organizations)
人間と動物の関係に関する団体の国際組織。「人と動物の関係学」分野に関心を寄せる各国・国内協会や関連団体で組織するもので、CAIRCも参与会員(affiliate member)として加盟。今年9月、ブラジル・リオデジャネイロで国際大会が行われる。


6月、CAIRCのWebサイトがスタート!
テキストブックも無料ダウンロードできます


6月5日、私どもCAIRCのWebサイトが誕生いたします。集合住宅とペット関連、人と動物の関係学関連の情報、ニュースレターバックナンバーなどこれまでのCAIRCの活動全般がわかるコンテンツや正田陽一CAIRC会長のエッセイなど楽しい読み物も満載です。また、CAIRC制作テキストブック「集合住宅で犬や猫と暮らす」も無料でダウンロードしてご利用できるシステムです。ぜひ、一度お立ち寄りください。

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