Letter from CAIRC
2001.10 Vol.5 No.5

『第9回人と動物の関係に関する国際会議』
「人と動物−21世紀へのグローバルな展望」をテーマに、
ブラジル・リオデジャネイロで開催

同時多発テロ事件の影響を受けながらも大会を挙行
学校の中でのペットの役割を明文化した「リオ宣言」も発表される


9月13〜15日、『第9回人と動物の関係に関する国際会議』(以下リオ大会)が人口600万人を超えるブラジル第二の都市、リオデジャネイロで開催されました。主催は、人と動物の関係学に関心を寄せる各国協会や関連団体でつくる国際組織IAHAIO(International Association of Human-Animal Interaction Organizations)で、第8回大会からWHO(世界保健機構)も協賛しています。今回は、世界約40カ国から400名近くの参加者が集まりましたが、大会直前の11日、アメリカで同時多発テロ事件が起きた影響で、世界中が混乱するなかでの開催となりました。アメリカ国内において離発着予定のすべての航空便がストップした状況だったため、アメリカから、また、アメリカ経由でブラジル入りを予定していた100名近くの参加予定者が出席できませんでした。大会は犠牲者への黙祷で幕を開け、基調講演、研究発表のいくつかが代読されるなどスケジュールに変更があったものの、無事3日間の大会を終えることが出来ました。

今回、IAHAIOは学校におけるペット飼育やコンパニオンアニマルとの触れ合いに関するガイドラインをまとめた『リオ宣言』を発表しました。今、犯罪の低年齢化、凶悪化は世界中で大きな問題となっています。心の育成に照準を合わせた教育の必要性が叫ばれています。そのアプローチの一つとして注目されているのが、動物介在教育(AAE=Animal-Assisted Education)です。また、そのためには介在される動物が動物福祉の視点から見ても適切な方法で介在し、安全に飼育されていることも重要です。IAHAIOではそのような観点から、動物介在教育のガイドラインをまとめました(本文末尾にガイドラインの内容を掲載します)。

なお、IAHAIOにはコンパニオンアニマル リサーチ(以下CAIRC)も参与会員として加盟していますが、今回、日本から日本介助犬アカデミー(JSDRA)、ヒトと動物の関係学会(HARS)の2つの団体が参与会員としての加盟を申請し、IAHAIOからの承認を受けました。これで、日本からはナショナルメンバーとして日本動物病院福祉協会(JAHA)、参与会員としてCAIRCを含む3団体が加盟していることになります。

リオ宣言でも発表されたAAEは今回最も注目が集まった分野
「動物介在教育で児童の自主性が高まり、クラスに安定感が生まれた」


『人と動物−21世紀へのグローバルな展望』をテーマとして掲げたリオ会議では、この3日間、リハビリテーション、人と動物のつながり、子どもの教育などさまざまな視点からの論文発表や活発な意見交換が行われました。また、大会最初の基調講演は人と動物の関係学分野で世界的権威として知られるアメリカ・パデュー大学のアラン・ベック教授の予定でしたが、テロ事件のため参加できず、デニス・ターナーIAHAIO会長の代読でスタートしました。発表の演題は『コンパニオンアニマルと人間が都市で共存するためには』です。内容は「都市生活に適したペットを選び、責任を持って動物を管理するための計画立案やガイドラインがあれば、人々と動物は楽しく共存することができるはず」という、この会議の骨子ともなるものでした。

前記した通り、今回、最も注目度の高い課題はAAEのあり方を検討することといえるでしょう。子どもの心身の育成にコンパニオンアニマルが果たす役割はより重要視されるようになり、AAEとして興味深い発表が数多く報告されました。なかでも、オーストリア・ウィーン大学クルト・コトゥルシャル教授の演題『子どもの社会性について犬がサポートする役割』はその代表的な研究です。同教授らのグループは6〜7歳児童が通う2つのクラスを例にとり、1つのクラスは動物を介在させないままで、もう1つのクラスは授業などにイヌを介在させるという形で実験を行いました。実験は、触れ合い開始時や終了後に、参加した児童たちの心理測定、週に3回1時間ビデオ録画を2カ月に渡って行い、その結果として「イヌを飼育したクラスでは子供たちに自主判断能力が高まり、集中力が出てきました。攻撃的な行動が減り、けんかが起こった際に仲裁に入る生徒が非常に増え、児童同士の親睦が深まりました」と発表しています。

また、子どもの教育をテーマとして報告された研究のなかには日本から参加した広島大学大学院博士課程学生、木場有紀さんの発表『日本の幼稚園における動物飼育に関する調査:教育的効果と今後の課題』(1999年度CAIRC研究奨学金助成対象)もありました。これは幼稚園での動物飼育状況と飼育している幼稚園側の意識を調査したもので、その意義と問題点を明らかにしました。「ペット飼育を行うことで園児に動物との触れ合い、思いやりや命の尊さを伝えたい、と考える幼稚園が70%以上にも上る反面、問題も少なくありません」と木場さんは指摘し、「動物の生態をよく把握しないまま飼育し、飼育動物の福祉の低下を招いているケースもあります」と飼育マニュアルの必要性をアピールしました。

高齢者と動物のかかわり、ペットと人の健康など
興味深い論文発表や活発な意見交換で交流を深める


今回、数多くの報告があった分野としては、高齢者とコンパニオンアニマルの関わりに関する領域でしょう。イタリアのサービスドッグに関する団体AIUCAに所属するデボラ・ブットラムさんは『高齢者施設における理学療法の必須部分としての動物介在療法(AAT=Animal-Assisted Therapy)』を発表しました。高齢者施設で理学療法を行う際の問題の一つが、入居者がリハビリをいやがる傾向があることです。この報告は、そのような状況を踏まえ、動物を介在させることで楽しくリハビリを受けることが出来るのでは、と考えたものです。実際、リハビリの回避は高齢者が一人で日常生活を送れなくなる原因にもなっています。苦痛を伴うリハビリを避けているうちに手足を動かす基本的な行動ができなくなり、最悪の場合は寝たきりの状態になることもあります。この研究では、通常のリハビリプログラム参加を拒否した7人の入居者に対して、犬を介在させた特別プログラムを実施しました。その結果、1999年〜2001年までの2年間に、麻痺した手足の動きが増し、行動範囲が広がり、固くなっていた筋肉がリラックスしたと言います。入居者が楽しそうに参加できたことや、コミュニケーションが著しく改善されたこともあげられています。

高齢者の健康に関しては、日本からも筑波大学医療技術短期大学非常勤講師、齋藤具子さんが、『コンパニオンアニマルの飼育と、手段的日常生活動作能力(IADL)及び、降圧剤使用との関連−日本人在宅高齢者に関する研究−』(1998年度CAIRC研究奨学金助成対象)を発表しました。高齢者の健康にコンパニオンアニマルがどのような働きを果たすか調査したもので、ペット飼育経験のある人ほどIADL障害は小さく、「ペットは親友だ」と答えた人は、よりIADL障害が小さい傾向があったと報告しました。

疾病後の患者にも好影響
動物との触れ合いが人を孤立から遠ざけ、乳がん患者の回復を助けてくれる


動物との触れ合いと疾病との関わりを検証したテーマも目立ちました。医学心理学の権威、ジェームズ・リンチ博士による基調講演『動物との触れ合いが健康に及ぼす大きな影響について』(代読:英国・サザンプトン大学ジョン・ブラッドショー博士)では、人が孤立することで、疾病率、早死率が高まる、という研究結果や、心臓病による早死と孤立との関係性をベースに、他者とのコミュニケーションの必要性について言及しています。リンチ博士は、「人間が他者と関わるときには、関わりを避けようとする生理反応と、受け入れようとする生理反応が起こる」と言います。そして、関わりを避けようとする反応は体に悪影響を及ぼし、受け入れようとする反応は身体をリラックスさせ、病気により低くなっていた自律神経系の喚起を促してくれる、と結論付けています。つまり、コンパニオンアニマルとの関わりは受け入れようとする生理反応を促し、心身をリラックスに向かわせてくれるというわけです。

一方、英国・ワーウィック大学のジューン・マクニコラス博士らは乳がん患者に対してコンパニオンアニマルが社会的サポートをもたらしてくれることを発表しました(『乳がんから回復しようとしている患者のサポートネットワークにおけるペットの役割』)。マクニコラス博士らは5つの乳がんサポートグループに所属する70名の女性を対象に、治療、ライフスタイル等におけるサポート体制に関する27項目をあげたアンケート調査を行いました。その結果、51%がペットの飼育者であり、その88%は1項目以上にペットが社会的サポートをしてくれていると答え、10項目以上にペットがサポートしてくれていると答えた人も43%にのぼります。なかには、20項目以上にペットのサポートを受けていると答えた人もいました。人間と人間の関係では強がったり、見栄を張ったりしがちですが、無理をしているため、ストレスが生じることも少なくありません。その点、動物に対しては本音で接することができるので、ストレスを緩和できるというのです。同教授は「乳がんから回復しようとしている人々にペットがもたらすサポートは大きなものがあります。回復を助け、病気と向き合うときのサポートになっています」とまとめました。

なお、介助犬についても、日本の変化を示唆する発表がありました。日本介助犬アカデミー専務理事、高柳友子博士の基調講演『21世紀における変わりゆく介助動物の社会的位置付け−日本から学ぶことは』(代読:介助犬アカデミー常任理事、山崎恵子さん)で、日本の介助犬の使役状況を報告するとともに、今、日本で進められている介助犬を使役する環境作りの取り組みを発表しました。6月から介助犬のアクセスに関する法案作りの準備が始められていますが、「この法律は介助犬の役割や訓練について明確な定義を与えることで、介助犬のアクセスを保証する、日本初、もしくは世界初の法律となるはず」と高柳博士は言います。日本の介助犬の利用頭数はまだ多くありません。しかし、環境整備が行われることで、介助犬の頭数が増え、多くの方々の行動を助けることが可能になるはずです。

リオ会議に出席した森裕司東京大学大学院農学生命科学研究科教授は、今回の会議に次のような感想をもたれました。
「数多くの興味深い研究報告に触れることが出来ました。たとえばコスタリカのカルロス・ドリュー博士の基調講演を聴いたときには、中南米でもこの分野の優れた研究者が育ってきていることに一種の感銘を受けました。この領域が世界各国で科学的な研究分野として、よりいっそう認知され、よりさまざまな背景を持つ人々と研究発表を通じて情報交換できるようになれば、さらに有意義な会議に発展していくでしょうね」。一方、世界各国からの報告を目のあたりにすると、日本の医療関係でAATなどの取り組みが遅れていることが気にかかります。太田光明麻布大学獣医学部教授は「日本の医療機関でAATを取り入れているところはまだ少ないですね。医学の世界がAATを認めるまでには時間がかかるでしょう。この分野を日本で定着させるためには、動物介在活動(AAA=Animal-Assisted Activity)を広く行い、実績を積み重ねる必要があります。どれほどの時間がかかるか分かりませんが、『効果がある』ことが分かれば、医療の分野で広く取り入れられていくと思います。従って、今、必要なことは、動物介在活動に関する『正しい』知識と技術を持った人材を育成し、活躍の場を作ることだと思います」と述べておられます。太田教授は、その第一歩として、2002年4月から大学院生(社会人大学院生)を対象にしたAAT/AAA教育・実習プログラムを実施されます。このプログラムには、デニス・ターナー博士、スーザン・ダンカン女史など海外から5人の講師を招き、国際的なレベルで展開される予定です。


1998年に行われたプラハ大会同様、今回もCAIRCではブース出展いたしました。ここではCAIRCの活動を紹介するとともに、集合住宅でペットを飼育するうえでの問題や日本のペット飼育事情などをくわしく紹介しました。ブースでは、各国からの出席者との情報交換を活発に行い、それぞれの国が抱える問題に日本の現状や、CAIRCのアプローチなどさまざまな情報を提供しました。また、今回は研究発表のなかで、日本人研究者の報告が数多く発表されたことも大きな手応えといえるでしょう。毎年、この分野の若手研究者に向け、奨学金を助成するCAIRCにとって、リオ会議で発表された研究のうち、2つの報告が奨学金助成対象になったものであることも非常に嬉しい成果といえます。人間が動物と共生するためにも、この分野の研究が大いに発展するためにも、そして、この分野の研究者が研究成果を発表する場としても、この会議はますます重要な役割を担うようになっています。日本における人と動物の関係学の世界でも大きな一歩を刻んだ、実り多い大会だったと言えるでしょう。


■ IAHAIOリオ宣言 動物介在教育実施ガイドライン

近年、コンパニオンアニマルとの関わりが子供たちや若者に良い影響をもたらすことが明らかになってきました。これにともない、子供たちに対して、適切で安全なコンパニオンアニマルに対する接し方や、種類によって異なるコンパニオンアニマルの正しい飼い方を教えることが重要となっています。また、ペットを活用した学校におけるプログラムが子供たちの道徳的、精神的、人格的な成長を促し、学校を中心とするコミュニティに社会的な恩恵をもたらすと認められてきました。学校カリキュラムのさまざまな場面に動物を介することで、学習機会を向上させるという一面もあります。このような背景を踏まえ、IAHAIOのメンバーは2001年9月にリオデジャネイロで開催された総会で学校におけるペットに関する基本的ガイドラインを採択しました。


IAHAIOは、学校でのペット・プログラムに関わるすべての人々と団体、すべての学校および教師に、以下のガイドラインを考慮に入れて、プログラムを行うことをすすめます。

1. 動物介在教育に関するプログラムでは、教室で動物に触れることを認めなければなりません。また、学校の規則や施設によってはこれらの動物は下記のいずれかの条件を満たしている必要があります。
a) 校内において適切な環境のもとで飼育されている。
b) 教師によって学校へ連れてこられる。
c) 訪問プログラムという形態のもと、飼い主同伴で訪問する。
d) 障害を持つ子どもに介助犬として同行する。

2. 子供とコンパニオンアニマルに関するいかなるプログラムも下記の条件を満たす必要があります。
a) プログラムに関わる動物が
  安全(適正があると認められるか、きちんと訓練されていること)。
  健康(獣医師による健康診断を受けていること)。
  学校の環境に適応する準備ができている(たとえば、子どもに慣れている、移動に慣れている、など)。
  適切に飼育されていること(学校でも、家庭でも)。
  動物飼育に対して知識のある成人の管理下にいること(教師または飼い主)。
b) 学級内の子どもの安全、健康、感情を尊重すること

3. 上の基準を満たしたコンパニオンアニマルを介したプログラムの実施者は、教室で飼育する動物を飼う前、または訪問プログラムを実施する前に、学校当局と保護者の双方に対して、動物介在活動の重要性について知らせ、理解してもらいましょう。

4. 明確な学習目標を定義する必要があります。それには、以下の事項が含まれている必要があります。
a) 学校カリキュラムの様々な場面で子供たちの知識や学習意欲を向上させること。
b) 人間以外の生き物を尊重する心、かつそれに対する責任感を育てること。
c) 子ども一人一人がそのプログラムに関わっているかどうか、また、子供によって感情の表し方は違うということを考慮に入れること。

5. プログラムに関わる動物の安全性と福祉はつねに保証されなければいけません。

 
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