Letter from CAIRC
2002.7 Vol.6 No.2

コンパニオンアニマル リサーチ主催
シンポジウム「子どもとペットとの大切な関係」
−動物・自然が及ぼす子どもの「心の発達」への影響−
教育関係者・研究者・獣医師・学生など
約230名の出席者を集めて開催

ゲイル・メルソン教授や子どもと動物、自然の関係に
取り組む専門家を迎え、パネルディスカッションを行う


今年、文部科学省は教育改革を実施していますが、そのポイントの一つとして「心の教育」があげられています。都市化・情報化が急激に進む今、子どもたちを取り巻く環境を考えると、「心の教育」は重要なテーマといえるでしょう。そんなアプローチの一つとして注目されているのが、自然のなかで子どもの気持ちを解き放ち、感動体験などから心の発達を促す、という自然体験活動などの方法。動物やペットとふれあう時間をもつのもその一つです。ペットが子どもに与える効用について様々な検証が行われてきました。科学的なデータも発表されています。子供の情操教育のためにペットを飼うという家庭も増えてきました。「コンパニオンアニマル リサーチ(CAIRC)」は“人間とコンパニオンアニマルとの共生”をテーマに活動しておりますが、このたび、シンポジウム「子どもとペットとの大切な関係 −動物・自然が及ぼす子どもの『心の発達』への影響」を開催いたしました。会場となった東京・港区のTEPIAホールには教育関係者・研究者・獣医師・学生など約230名が集まり、パネルディスカッションでは、会場から数多くの意見が寄せられました。


子どもとペットの関係を研究する世界的権威
ゲイル・メルソン教授の講演でスタート


シンポジウムは6月8日午後1時、正田陽一CAIRC会長の挨拶の後、基調講演「子どもの暮らしにおける動物の役割」で始まりました。講演を行ったのはアメリカ・パデュー大学ゲイル・メルソン教授。同教授は児童発達心理学の研究者として知られる一方、動物と子どもの関係性についても数多くの研究を重ね、98年IAHAIO「第8回人と動物の関係に関する国際会議」では研究報告「家族がペットから受けるサポート」を発表しています。また、近書「Why the Wild Things Are : Animal in the Lives of Children(子どもの暮らしにおける動物の役割)」(2001年)では、動物と関わることが子どもの成長にどのような影響を及ぼすかについて報告し、高い評価を得ています。

基調講演 「子どもの暮らしにおける動物の役割」
気持ちを解放し、他者への共感も育てる
子どもとペットの関係は心の発達にいい影響

ゲイル・メルソン氏(米・パデュー大学児童発達学・家族研究学科教授)

核家族化・少子化が進む現代だから
ペットは子どもの心の育成に重要な役割を持つ


アメリカの場合、ペットを飼っているのは子どものいる家庭が多く、子どもの70〜75%はペットとともに育つという統計があります。核家族化・少子化傾向が強まるなか、子どもたちがペットと過ごす時間も増える傾向にあります。また、動物園、水族館、自然公園なども人気で、子どもたちはプロスポーツ観戦より動物と過ごせる施設に出かけていく機会を多く持っています。学校でもペットを飼うことは多く、8歳以下の子どもの見る夢には動物が多く登場します。

近年、ペットは子どもにとって重要な役割を持つことが研究によって明らかにされてきました。子どもはペット飼育から愛情を注ぐこと、他者への共感、他者の面倒をみること、死や別れの経験など様々なことを学びます。また、ストレスを感じたときの社会的・情緒的サポートとしての役割を担うこともあります。

ペットとじゃれ合うなかで、感情抑制を会得し
他者への思いやりを育てる


まず、ペットへの愛情をみていきましょう。通常、家族と過ごす時間は子どもたちが成長すると減っていくものですが、ペットと過ごす時間はむしろ増えていくというデータがあります。そして、一緒に過ごす時間が長いほどペットとのつながりは濃いといえます。子どもたちはペットとじゃれ合うなかで多くのことを学びます。感情抑制を習得し、どこで力加減をすれば相手が痛い思いをしないか…といったことを学びます。また、ペットは、大人が子どもに接するように評価したり、批判したり、期待したりということがありません。だから、ペットといるときの子どもたちは、何を課せられることもなく、リラックスできるというわけです。

それも、子どもたちはペットに対してはっきりと愛情を注いでいることがわかります。聞き取り調査を行うと、ペットを「よい友達」だと思っている子どもやそれ以上の存在だと考える子どもが大勢いました。ペットへの愛情レベルについては、男女の差異もなく、種類によっての違いもほとんどありませんでしたが、母親がフルタイムで働いている家庭の子ども、弟や妹がいない子どもが高いレベルを示しました。ペットに対して強い愛情を示す子どもは、共感する能力や自尊心が高いという結果も出ています。

また、子どもたちが性別による区別なくペットの世話を行っていることがわかりました。男児は5歳くらいになると年下の子どもの世話をしたがらなくなりますが、ペットの世話をすることは男児も、女児同様に興味深いことのようです。男児は他者の世話をすることを学ぶ機会が少ないため、ペットの世話を行うことで経験の埋め合わせが可能になります。

ペットはいつでもそばにいてくれる
「良い友達」で、批判的態度もとらない


次に、動物と子どものストレスについて話を移していきたいと思います。ストレスを受けている人間はだれかがそばにいてくれると感じることによって孤独感が減少します。グループの一員であるという安心感、自分は愛されている、評価されている、と感じることで心が和らぎ、ストレスが軽減されていくわけです。この役割の一端、もしくはその多くをフォローしてくれるのがペットの存在だという調査があります。ペットはいつでもそばにいてくれる「良い友達」で、批判的な態度もとりません。高度な言語能力や社交能力を使うコミュニケーションも、サポートに対する見返りも要求しません。加えて、ペットは子どもに対して、自分は存在価値があり、能力があると思わせてくれるのです。

よい結果をもたらすかどうかは大人の対応次第

注意しなければいけないのは、動物は子どもの心の発達によい影響を及ぼすこともありますが、何もせずにプラス効果がもたらされるわけではないということです。子どもが動物から何かを学ぶことができるかどうかは親や教師の担う役割が大きく、大人がお手本を見せることによって教えていかなければなりません。また、費用、住宅事情、アレルギーなどの事情で飼えないということもありますが、公園や動物園などで動物と触れ合う機会をつくることは可能です。動物に限らず、植物や庭の手入れを手伝わせることで子どもに生物の世話をする機会を与えることもできます。責任を持って飼育するために、衝動買いや誕生日のプレゼントで動物を飼い与えることは避け、子どもにペットを飼うことは死ぬまで面倒をみることだと理解させる必要があります。もちろん、きちんとペットを訓練することも大切ですし、最終的には、親や教師が動物の飼育に責任を持つ必要があるでしょう。


子どもと動物などの分野の専門家から
心の育成に向けたさまざまなテーマが発表される


シンポジウムは、座長を務めた太田光明麻布大学教授、他3名のパネリストの方々からの意見発表が行われました。

子どもにとってペットがどんな存在か
大人が理解しておきたい

並木美砂子氏(千葉市動物公園協会・フェリス女学院大学非常勤講師)

今、学びの形が変わってきています。これまでは、学びというと、Learningとされてきましたが、現在、Experience、つまり、「経験」と接近してきていると思います。学びの概念が、日常生活の中で自分から何かを学び取っていくものになってきていると考えられます。そんななか、家族の中に動物がいることはさまざまな体験があり、そこに学びが生まれてきます。そのとき、両親は「子どもにとって動物はどんな存在か?」、「子どもたちが動物とどんな関わり方をしているか?」ということを理解することが大切と思われます。それが子どもの心的状態を表す指標になるからです。

子どもは世話を行うなかで、動物の様子から何が好きか理解したり、してあげられることは何かを学んだり…数多くの学びを得ることができます。対象を知ると愛情を感じ、愛情を感じると、その対象をもっと知りたくなります。そこに科学の目も生まれてきます。子どもたちがそう行動するとき、周囲の大人がそれに価値を見出してあげることが大切だと思われます。

ただ、もう一ついえることは心の発達とは何かということ。わたしたち大人は自分たちがつくりあげた理想像にどう近づくか重視して教育してしまいがちですが、そこに押し付けがあったり、望みを託したりすることも多いと思われます。動物や自然への態度は、私たち大人の自然観や動物観を疑ってみることを通じて、子どもたちの中に新しく芽生えます。それが子どもの心の発達ということであり、これからの人間と自然の新しい関係をつくりだすうえで必要なことでしょう。

自然体験活動で心の育成を促すには
経験を生かすという視点が不可欠

日置光久氏(国立教育政策研究所教育課程調査官・
文部科学省初等中等教育局教科調査官)

最近、体験活動を学校で取り入れよう、という法律ができました。週休2日制導入もあり、自然体験活動はいっそうニーズの高い、21世紀の学びの新しい形になってきました。私は自然体験活動の指導員を務めていますが、ここで自然体験活動を行う際の重要なポイントを紹介したいと思います。第1に、経験を積極的に生かそう、ということ。経験しただけでは学びとはいえません。過去の経験を関係づけて意味づけることで、経験は輝きを増してきます。無意識の世界が意志決定のときに大きな影響を与えていることから、無意識の世界にしまっている経験を顕在化することで、学びが生まれてきます。第2に、活動の目標や狙いを意識しよう、ということ。どのような学びを子どもに成立させようと思っているのか考えることが大切です。同じような体験でも狙いによって、アクティビティの並び方も違ってきます。第3に、未来へのベクトルを意識しよう、ということがあります。過去と未来の間に今がある。それを意識するということです。最後は、想像、イメージのふくらみを大切にするということ。目の前にある生物に対して持っているイメージは実際に体験したときとは違います。このずれ、違いに気づくことに学びがあります。栽培・飼育など長期的な関わりのなかで自分とは違った特性があることに気づいたり、共感を覚えたり、さまざまなことを学べます。

心の育成には動物に対する愛情が大切
大人が子どものペット飼育の動機を認識しよう

正田陽一氏(東京大学名誉教授・コンパニオンアニマル リサーチ会長)

動物の福祉、子どもたちの心の育成を考えるとき、ペットを飼育する動機は重要なポイントではないでしょうか。アメリカ人の動物観について研究したケラートが、動物に対する態度を12の分類に分けた研究報告を行っています。たとえば、12の分類のうち、否定的態度である「きたない」、「おそろしい」では飼育する動機にはなりえません。「無関心」という態度もありますが、これも飼育する動機ではありません。なにかそこに飼うための動機が存在するわけです。たとえば、虫などの生き物を飼ってみようというのは、好奇心に根ざした、科学者としての態度があり、「食べる」のも人間が動物を飼育する動機のひとつです。もちろん、科学的な態度が飼育する動機だったとしても、その動物に愛情をもち、家族の一員とみなす場合もあります。簡単に分類しにくいものではありますが、子どもの心の育成を考えるとき、コンパニオンアニマル、つまり、家族の一員として動物と交流する態度をもつことは不可欠です。子供がペットとの交流から何かを学びとり、大人が見守るとすれば、どのような動機で飼育しているのか正確に認識する必要があると思います。そして、それが責任を持ってペットを飼育するということにもつながると考えます。

科学的取り組みの進む人間と動物の関係学
より深い研究の重要性、緊急性を提言したい

太田光明氏(麻布大学獣医学部教授)

3年に1回行われるIAHAIO「人と動物の関係に関する国際会議」が昨年9月、リオ・デジャネイロで行われました。そのなかで、約20のポスター発表から、参加者が優れていると思うものを採点する催しがありました。最も評価の高かった発表がオーストリアの女性研究者の研究報告。これは、6歳児のクラス24人の行動を犬と一緒のときと、犬がいないときで比較調査したものです。その結果として、「教室でトラブルが起きた場合、犬が介在するときの方が子どもたちは落ち着いていて、おおごとにはならない」と発表しています。自主判断能力や集中力の高まりも認められました。このように、最近、「子どもとペットの関係」について科学的なアプローチがなされ、数多くの研究報告が発表されてきています。しかし、まだまだこれからです。教育に関して、子供が生まれて死ぬまで100年単位でかかるわけですから、すぐ結果が出るものではありません。視点をしっかりすえて、研究を行う必要があります。このシンポジウムが契機になれば嬉しいですね。


子どもたちの未来のために、未来の自然や動物のために
学校や家庭で自然や動物との触れ合い活動を促したい


パネリストの発表の後、質疑応答が行われました。会場から「1、2年生向けの生活科の授業で犬の触れ合い活動を行っていますが、1年生では絵を描かせても単体だけの絵になりがち。理解度が違うので1年、2年で分けた方がいいのでしょうか?」という質問があがりました。この質問について、並木さんからは「1年生は個人差もありますし、表現することに慣れているかということもありますが、重要なことはその子がその手段で伝えたいことを伝えているかどうかということです」とアドバイスがありました。また、メルソン教授は「いろいろな年齢の子どもをいっしょに教えたほうが効果的だと言われています。上級生は下級生に教えることができる、下級生にとって上級生は親近感がもてる先生になってくれる。ただし、それを管理できる、優れた教師が必要でしょう」と回答されました。日置さんからは「触れ合い活動に入る前に絵を描かせるようにすると、期待感を盛り上げることができます。触れ合った後にまた描かせると知らなかったこともわかります。1年生だからできないではなく、教える方も柔軟にとらえていくといいと思います」というアドバイスがありました。日置さんはCAIRCからのインタビューでも「動物介在教育も獣医師と教師のコンセンサスをとることが大切ですね。どうすれば発見があり、教育的な効果があがるか、教師と獣医師が連係し、対応していく必要があるといえます」とおっしゃっていました。


泣いていた園児がウサギを見て泣きやむ
子どもにとって動物とのふれあい効果は大きい


太田教授は今回のシンポジウムを振り返り、「この講演で、今後の課題も提示されました。研究すべきテーマも絞られてきたと思います。今後は子どもとペットとの関係性について、個人レベルではなく、行政や国レベルでの研究プロジェクトが行われることを望みます」と強調されていました。シンポジウム参加者の一人である千葉県・あやめ台幼稚園神野茂美園長に感想を伺うと、「子どもたちにとって動物の癒し効果はたしかにあると思います。入園前でストレスを抱え、泣いていた子どもがウサギを見て泣きやむということもあります。園のすぐ隣に私の家があり、犬を飼っているんですが、よく園児たちが遊びに来ています。子どもたちは動物が大好きですが、ペットを飼っている家庭は10軒に1軒程度です。園でしか動物に触れる機会がないという子どもも多いので、できるだけその機会をつくってあげたいと思っています。これまで動物触れ合い活動などは知りませんでしたが、危険がないことがはっきりわかればいずれ取り入れてみたいですね」とおっしゃっていました。都会から自然が消え続ける今、子どもが動物と触れ合う機会はどんどん減ってきています。子どもたちの未来のためにも、自然や動物の未来のためにも、ペットと子どもの関係性について研究することは重要で、かつ緊急性の高い課題といえるでしょう。CAIRCは今後もこのテーマについて考えていきたいと思います。

*このシンポジウムは、社団法人日本獣医師会、日本小動物獣医師会、ヒトと動物の関係学会のご後援と、麻布大学動物応用科学科動物人間関係学教室、全国学校飼育動物獣医師連絡協議会のご協力を得て開催いたしました。

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