Letter from CAIRC
2003.7 Vol.7 No.2

第5回を迎えたCAIRC「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究発表会開催!
幅広い研究分野からの多彩なアプローチに注目集まる

奨学金助成を受けた6名の研究成果が発表される

コンパニオンアニマル リサーチ(略称:CAIRC)は、98年から毎年、研究援助活動としてCAIRC「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究奨学金プログラムを実施しています。今回6件の研究結果発表を行いましたので、ここにご報告いたします。

去る6月20日、第5回CAIRC「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究発表会を東京・千代田区の日本記者クラブで開催いたしました。発表会には研究助成金給付者の岡光信子さん、久保田豊和さん、中尾睦宏さん、秋吉秀保さん、坂井妙子さん、前回の研究助成金給付者の久保悠子さんの代理として共同研究者である山本博章さんのほか、第5回選考委員を務めた太田光明麻布大学教授、森裕司東京大学大学院教授、CAIRC会長を務める正田陽一東京大学名誉教授が出席いたしました。

研究発表会は正田会長の挨拶でスタートしました。
「CAIRC研究奨学金プログラムも今年で5回目を迎えました。CAIRCでは今年度の奨学金給付者を含めて28名の研究をサポートさせていただいております。今回も幅広い分野からバラエティ豊かな研究が寄せられました。生物学的な研究だけでなく、幼児教育の試みや生命観、動物介在療法(AAT)など興味深い研究報告がそろいました。一年間だけの限られた奨学金にもかかわらず、どの報告も長年の研究を積み重ねてきたもので、皆さんのその努力に感謝しております。来年、この分野の国際会議であるIAHAIO大会がスコットランドのグラスゴーで開かれます。前回ブラジルのリオデジャネイロで開かれた大会では、本奨学金給付者の中から2名が研究発表を行いましたが、グラスゴー大会でもすばらしい研究成果を発表していただけるようにお願いしたいと思っております」

回を追うごとに幅広い学問領域から、バラエティに富んだ研究テーマが取り上げられ、この分野の裾野を広げてきました。今回も前回に続いて医師による本格的なAATの研究が発表されました。また、幼児教育に動物を活用する試みや、欧米とアジアの生命観の研究などユニークな研究報告が寄せられ、この分野の大きな可能性を示唆するものとなっています。この研究テーマの広がりと内容の充実ぶりは、「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」が日本においてますます必要度の高い学問として認知されつつあることを示しているといえるでしょう。


ネコの毛色形成を遺伝子レベルで追い詰め、
ネコと人間の共生関係の長い歴史を解き明かす端緒を開く
研究テーマ:「ネコの毛色パターン形成機構〜伴侶動物の個性発現を知る」
東北大学大学院生命科学研究科生命機能科学専攻博士課程前期課程終了
久保 悠子

発表者は共同研究者 東北大学大学院生命科学研究科・助教授 山本 博章
山本博章

久保さんと山本さん、そして、現在も同大学の博士課程で学ぶ福崎麗さんのチームは長年にわたってマウス(ハツカネズミ)の毛色発現に関わる遺伝子についての研究を続けてきました。ネコの毛色の研究は、その延長として取り組んだ試みです。
「わたしたちの研究の目標は、色素細胞の発生機構がどのようになっているのか、そして、それがどう進化してきたのか、という点にあります。色素細胞の機能は、紫外線防御がよく知られていますが、それだけではありません。婚姻色やカムフラージュ、視覚・聴覚とのかかわり、さらにメラニン色素が多くの薬剤を吸着することや、ラジカルスカベンジャーとしての機能を持つことも知られています。また、これらにかかわる遺伝子の産物は、エネルギー代謝や免疫機能にも影響を及ぼしています。これだけ重要な機能を持つ色素細胞のシステムが、生態学的なストレスなどでどう変わっていくのか、といった点にも注目しています。突然変異などで色素細胞に大きな変化があれば、すぐに体毛に現れて一目で見分けられるのはこの研究にとって大変有利な点です。また、このような変異が起きてもその個体は死に至ることがほとんどありません」

生きたまま長く研究できれば、加齢にともなうデータも得られます。したがって、マウスなど小型で扱いやすい動物の毛色と色素細胞については、古くから世界中で研究が進んでいます。
「これまでの研究から、哺乳動物の場合、色素細胞を作り出す細胞は2種類しかないことが分かっています。その一つが神経冠細胞という脊椎動物に特有の細胞です。これは体の背側から全身に広がっていく細胞で、そこから分化する色素細胞が頭髪や体毛、皮膚の色などを決定します。これまでにこの過程に関わる遺伝子が100以上みつかり、数10個が塩基配列まで解明されました。このうち明らかに黄色に関する遺伝子は2つあります。哺乳動物の毛色形成の基本的な機構は保存されて共通する部分があるはずですので、この遺伝子をネコで確認してみようと試みたのが今回の研究です。毛色は哺乳動物の重要な個性の一つであり、長い間伴侶動物として人間と共生してきたネコと人間のかかわりを研究する端緒になればと考えました。今回のネコの色素細胞研究では、この黄色に関する2つの遺伝子の1つについて解明しました」

講評では、森先生がかつて旧ソ連邦で行われたキツネの研究を紹介して、評価されました。「人に慣れやすいキツネを作り出すために、20世代にわたって、温順な性格のキツネを選んで交配した研究が行われました。結果として実験は成功し、人に慣れやすいキツネが生まれたのですが、その中にブチの体毛が現れたという報告があります。こうしたことからも、性格と毛色について、何んらかの関連があることは知られていました。マウスで実績のある山本さんたちの研究が人間になじみ深いネコに広がってきたことは今後に大きな期待ができます」

人間と動物との関係について考えを深める
契機になりうる興味深いフィールドワーク
研究テーマ:「南アジアの生命観と共生の理念
−「生き物」をめぐる世界観の人類学的研究の試み−」
東北大学大学院文学研究科・博士課程学生 岡光 信子
岡光信子

文化人類学を学ぶ岡光さんは、フィールドワークで訪れたインドで人間と動物の関係に感銘を受けたと言います。南アジア(インド)では、人間も自然の一部ととらえ、生物としての人間と動物に上下関係や優劣をつけません。一方、西洋の場合は、「文化」は「自然」に優越するという考え方があります。それに基づいて、「文化」的存在である人間が「自然」に属する動物を支配するという構図が見られ、西洋と東洋ではまったく異なる世界観がありました。東西では、コンパニオンアニマル(ペット)としての動物に対する考え方にも違いがあるのではないか、これが岡光さんの着眼点です。これを検証するために、岡光さんは1ヶ月半にわたるインドでのフィールドワークを経験し、その成果を発表しました。岡光さんが滞在したのは、南インドのカンニヤークマリ県です。
「インドにおける人間と動物の関係には、西洋的な厳格な上下関係はありません。むしろ人間と動物は同列にあるように感じました。古代バラモン教では、生き物を胎生(たいしょう)、卵生(らんしょう)、湿生(しっしょう)、芽生(がしょう)の4つに分けています。胎生は母胎から生まれる哺乳類、卵生は卵から生まれる魚類、両生類、爬虫類、鳥類、湿生は湿気から生まれると考えられていた昆虫類、芽生は芽から生まれる植物を指しています。これら4つのカテゴリーは、生き物の優劣や上下関係を示すものではありません。形質の違いによる区分にすぎません。人間と動物は、同じ生物として緩やかな連帯で結ばれ、ときには動物が人間にとって崇敬の対象でさえあります。インド国民の80%以上が信奉するヒンドゥー教では、ゾウの頭をしたガネーシャ、サルの姿をしたハヌマーン、コブラの姿のナーガなど動物の姿をした神々も奉られています。また、動物そのものが神として崇敬されることもめずらしくありません。そのため、人間の方が不自由を強いられることさえあります。首都デリーでは、ここ数年、野猿が急増して人を襲うなどの被害が後を絶ちません。しかし、サルは神の化身であるという意見があり、駆除などの対策がとれません。ウシは神の乗り物、もしくは神の化身と考えられており、食べることでだけでなく、屠殺すること自体を禁止しようという運動が起こっています。

また、村落部では家畜としてウシ、ヤギ、ニワトリ、アヒルなどが飼われています。これらは、日中はほとんどが放し飼いで、鎖に繋がれたり、小屋に入れられることはありません。そこには、人間と動物の間には共生関係が見られます。人間が捨てたゴミや残飯をウシが食べ、ウシが出すミルクを人間が飲むという姿です」

我々は、アジアの生命観に学ぶべきことがあると岡光さんは言います。 「西洋社会におけるコンパニオンアニマル(ペット)は、人間社会に受け入れられ、固有の名前を与えられ、公共施設などでも排除されません。人間とペットの間に垣根はないように見えます。しかし、ペットは、自然に属する野生動物や家畜とは一線が引かれています。ペットは人間社会に受け入れられるために、エチケットやマナーに相当する厳格なしつけを受けることで、文化化された動物です。都市部で人間と動物が共生するために、衛生的な問題なども考慮する必要があります。同時に、インド的な生命観に基づいて、生あるものすべてが一つの宇宙を形成するマンダラ的な世界に学ぶことも必要ではないでしょうか」

発表の後、岡光さんは「研究するなかで、西洋社会の人間とペットの関係は、キリスト教の影響を受けていると思いました。このテーマをもっと掘り進めて行くと、西洋社会のなかでの人間とペットの関係がもっとわかってくると思います。そういう点で言うと、これはとても大きなテーマになるのではないかと考えます」と今後の取り組みについて話してくれました。

なお、講評として森先生が「おもしろい着眼点で、人間と動物との関係について考えを深める契機になりそうです。今後は、何か定量化できるデータがあげられるように工夫していただきたいですね」と述べられました。

五感でヒツジに触れ、羊毛を活用して五感でふりかえる
本物の体験が本物の知識を生む幼児教育
研究テーマ:「ヒツジを介在した幼児教育の可能性」
静岡県立田方農業高等学校ライフデザイン科・教諭 久保田 豊和
久保田豊和

今、幼児教育において適正年齢に適正体験をする必要性が指摘されています。また、総合的な学習の観点から、従来の教える教育から導き出す教育(ファシリテート)や遊育への転換が重要視されてきています。久保田さんはこれらの解決策の一つとして、ヒツジのファシリテーターとしての可能性、牧場でのヒツジを使った幼児教育プログラムの開発、羊毛を活用しての幼児教育教材の開発などを行いました。
「授業の一環で、植物活用として高校生が幼稚園生とワタをともに栽培する園芸療法プログラムを実施しました。このプログラムの最後のまとめとして学校で飼育するヒツジを園に連れて行き、触れ合ったあと、ワタを使ってヒツジのオモチャを作りました。ヒツジの声、匂い、触感、フワフワ感などを五感で感じ、ワタを使って五感でふりかえる、本当の体験による本当の知識が園児に芽生えるのを実感しました。この体験からヒツジのファシリテーターとしての可能性を感じました。ヒツジは本来家畜ですが、おとなしい性格とフワフワしたかわいらしい外観から、愛玩動物への転用が可能であると考えます。また、他の家畜と違い屠殺しなくても羊毛として利用でき、動物との共生や家畜の犠牲の上に成り立っている人間の生活を子供たちに教えるのに適しています。作業療法的なリハビリテーションとして羊毛の活用も考えられます。現代の教育は、テレビや本などで疑似体験したものを作文や絵などでふりかえって学習としています。つまり視覚で認識し、視覚でふりかえる方法です。この視覚による情報は90%以上を占め、本当の体験による知識が不足しています。ここにヒツジを介在させる意義があると思います」

つまり、バーチャルリアリティーからリアリティーへの転換です。また、一般的に動物介在療法は、動物が寄ってくるとか、膝の上に乗ってくる、手をなめてくれるといった受動的な体験が主体になることが多いのですが、ヒツジを活用することで能動的な体験ができると、久保田さんは考えました。
「私たちが考えた基本プログラムを紹介します。まず導入として、ヒツジと五感を使って触れ合います。観察する、さわる、匂いをかぐといった内容ですが、幼児は自分より大きなヒツジに尻込みする場合もあります。そこで、実際にヒツジに触れる前に、絵本などでなじんでもらいます。次に餌を与えて、代わりに毛を少し切り取ってもらいます。これによって人間と家畜の交換関係(Give and Take)を体験し、家畜としてのヒツジの意味を理解してもらいます。次に展開として、もらった羊毛を使って工作を行います。ここでは年齢に合わせて、ヒツジのオモチャ、フェルトボール、フェルトのペーパーウエイト、毛糸つくりとコースターつくりなど4つのバリエーションを考えました。ふりかえりの段階では、作文や絵のような視覚ではなく、工作とすることで立体的により深く五感でふりかえることができます。また、私たちは障害をもつ養護学校の生徒にも、このプログラムを行ってみました。その結果、シープセラピーと呼べるような癒しと機能回復訓練の可能性も感じました。

ヒツジはコンパニオンアニマルとしての認知度が低く、学校での飼育動物としてもまだ少数です。今後はより多くの場でヒツジの活用の基本プログラムとバリエーションのワークショップを行い、改良を加え、普及していきたいと考えています」

森先生は「幼児教育の重要性や、そこに動物を介在させる効果について多くの関心が寄せられています。そのような状況だからこそ、本研究ではヒツジの特長をうまく活用し、成果をあげている点が高く評価できます。ユニークでインパクトのある研究だと思いました。何よりもVTRの中で、喜んでいる子供たちのかわいい笑顔に、大いに説得力を感じました」と講評されました。

ペットの癒し効果についての
臨床の現場からの貴重な研究報告
研究テーマ:「心身症患者におけるコンパニオンアニマルによる
「リラクセーション反応」の研究」
帝京大学医学部衛生学公衆衛生学・心療内科講師 中尾 睦宏
中尾睦宏

コンパニオンアニマルによるリラクセーション効果については、マスコミでも取り上げられることが増えたものの、実証された研究はけっして多くありません。ここで発表されたのは心療内科医の中尾さんが、その効果について医学的に実証した貴重な研究です。 「今回報告する症例は30代で全身性エリテマトーデス(SLE)という膠原病の一種にかかっている女性です。この病気の特徴は顔面紅斑、光線過敏、関節炎、血液学的異常といった身体的病変と、せん妄などの意識障害やうつ症状などの神経学的病変を併せ持つところにあります。本症例では強い関節痛とうつ症状を訴えて内科から心療内科へ転科しました。その後の精査でSLEと診断されましたが、発病から病状悪化の直前に長年連れ添った室内犬と死別していることがわかりました。それ以降も新たな室内犬との生活がはじまると症状が回復に向かい、喪失すると悪化するという経過をたどっており、SLEの病状にコンパニオンアニマルが強く影響していると考えられました」

そこで中尾さんは、患者さんの承諾を得てコンパニオンアニマルの帯同によるリラクセーション反応の生理学的変化について研究を進めてみました。
「検査は、安静時の脳波α波の周波数・振幅、皮膚電気抵抗、皮膚温度、心拍数、呼吸回数を測定しました。外来の検査室で2度の測定を行っています。2度目の測定では、安静閉眼時の測定に加えて、閉眼したまま、自分の愛犬を抱いている状況を想像してもらいながら測定を行っています。心拍変動は、高周波成分(HF)と低周波成分(LF)に分け、HFを副交感神経系機能の指標に、LF/HFを交換神経系機能の指標にしています。ここで副交感神経系機能が活発化することはリラックス状態を表し、交感神経系機能の活発化は緊張状態を表しています。

結果としては、安静状態から、自分の愛犬を抱いている状況を想像した状態に移ったところ、脳波α波振幅と、副交感神経系の指標であるHFの有意な増加が認められました。また、1回目の外来測定後、ホルター心電計を装着してもらい、自宅での心拍変動の変化を就寝まで測定したところ、犬におやつを与えたり、犬と戯れているときに副交感神経系機能が活発化し、交感神経系機能は低下しました。

この結果、コンパニオンアニマルとふれあうことによってリラクセーション反応が得られ、それを想像するだけでも効果が得られることが分かりました。しかし、想像するだけよりも、実際に犬を帯同しているときの方がより測定値が高いことも分かり、想像や外から見るだけではなく、実際に感じ触れ合う体験重視の方法を考慮する必要がありそうです。
今後の課題として、標準化された治療法と評価法を確立し、動物介在療法による身体・心理状態の改善度を評価する質の高いデータを積み重ねていく必要があると考えています」

発表後の質疑応答で、ペットによる癒し効果とペットロスのダメージについて質問があり、中尾さんも、それを今後の課題の一つにあげました。また、太田先生は「アニマルセラピーについて医学関係者の発表があったことは、非常に喜ばしいことです。内容としても興味深く、今後の展開に大いに期待したい。これがきっかけになって研究が広がっていくと嬉しいですね」と述べられました。

イヌが地震の前兆である電磁波を感知して
異常行動を確認することに成功
研究テーマ:「動物の未知なる能力の探索〜イヌによる地震予知の可能性の検討〜」
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科獣医外科学研究室・博士課程 秋吉 秀保
秋吉秀保

1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生しました。その後の調査によって、神戸市など震源地周辺で飼育されていたイヌやネコが異常行動を示したことが報告されています。秋吉さんは、この異常行動が地震の前兆を感じていたためではないかと考えました。
「このときの地震直前には、イヌやネコばかりでなく鳥類や魚類、昆虫類などの異常行動も報告されています。私たちはこれを地震前に起こる電磁波異常に反応したものではないかと考え、この仮説に基づいてラットやウシガエルの心臓で研究してきました。ラットの場合には電磁波によって血中アドレナリン濃度が減少し、ウシガエルの心臓の場合には心拍数が減少することがわかりました。今回は、これをイヌで試みてみようと考えました。まず研究室で飼育されていたビーグル犬8頭を対象に電磁波照射による行動の変化を観察し、採血して血糖値や白血球数を測定しました。しかし、この実験では有意な差を認めることはできませんでした。この原因にはいくつか考えられました。実験動物としてよく用いられる犬種であるビーグル犬は、人による改良が重ねられて個性による違いを含めて、犬の特性のいくつかを喪失している可能性があります。また、ケージ飼育や採血などのストレスが電磁波のストレスを上回った可能性も否定できません。電磁波の強弱や照射時間なども実際の地震前のパターンに近づけるように工夫する必要があると考えました」

秋吉さんはこれらの諸問題を考慮し、一般の家庭犬と同様な飼育環境の中でトレーニングした犬を用いて、2度目の実験を行いました。
「電磁波を連続波からパルス波に変更し、強度も何段階かに強弱をつけて照射してみました。また、ケージ飼育をやめて研究室内を自由に動くことができるようにし、ストレスがかからないよう採血ではなく尿による検査方法を採用しました。この結果、後肢で体を掻く、前肢を30秒前後かみ続ける、といった普段には観察されない異常な行動が観察されました。尿中のカテコールアミン濃度、ノルアドレナリン濃度などの変化も検出することができました。もちろん、動物には個体差があり、生体反応も一様ではありません。しかし、電磁波などの前兆現象を動物が何らかの方法で感知し、異常行動におよぶことがありうるということは確認できたと思います」

太田先生もこのテーマの研究に携わる研究者の一人。秋吉さんの研究もサポートされています。「私たちは7年間このテーマに取り組んできましたが、私自身はまだ異常行動を再現できていません。この難しいテーマに取り組んで異常行動を再現したという成果をあげられたことは画期的で、非常に価値のあることだと思いました」

高価なペットに高価な服を着せる飼い主の心を探る
19世紀のイギリスと現代日本のブームを比較した興味深い研究
研究テーマ:「犬に服を着せるのはなぜか?
〜19世紀イギリスから現代日本のドッグ・ファッションを読み解く〜」
日本女子大学人間社会学部・助教授 坂井 妙子
坂井妙子

現代の日本、とくに都市部では、イヌに服を着せて散歩するペットオーナーの姿を頻繁に見かけます。本来、イヌにとって不自然なはずの服を着せるという行為はどうして始まったのでしょうか。坂井さんは19世紀のイギリスに注目して、この現象を解明しようと試みました。
「西洋において17世紀末までは、人間は自然に対して受動的で、自然を驚嘆と恐怖の的と思っていたと言われています。この伝統的な自然観に大きな変化が起こったのが19世紀のイギリスでした。この時期、イギリスでは急速に近代化、工業化が進み、都市化が進みました。これにともなって、自然は人間の知力や技術力で操ることができる対象に変わっていきました。かつて畏怖すべきものだった動物に対する姿勢も変わっていきます。当時の犬は広くヨーロッパ諸国で、牛乳の荷車を引くといった使役を行っていました。イギリスではこの犬の運用が19世紀半ばに廃止されています。このころから犬は愛玩動物(ペット)になっていきます。そして広くいきわたったペットに対する多大な関心と過剰なまでの愛情が、服を着せるという現象を生み出していきます」

坂井さんは当時のファッション誌と一般向け雑誌を取り上げて、19世紀イギリスのドッグ・ファッションを読み解いていきます。
「大量に発行されていた雑誌を取り上げることで、一部のペットマニアが犬に服を着せたのではなく、社会のより広い階層、上流階級と中産階級の裕福層がペットを慈しみ、服を着せていたことが分かるからです。こうした雑誌によれば、犬の服はペットショップで既製品を調達するのではなく、仕立屋で誂えます。ベルベットやシルクなどの高級生地を使用して作った飼い主とお揃いの服やドレス、散歩のためのコート、自動車でドライブするためのコートやゴーグルまでありました。また、T.P.O.もあって、午前用、午後のドライブ用、旅行用といった具合に使い分けられています。貴金属(または模造品)のアクセサリーもありました。首輪の代わりにブレスレットやアンクレットが流行し、黒いプードルにはプレーンなゴールドのブレスレット、毛足の長いテリアには磨き上げた金属のアンクレットというように犬種に合わせたファッションが紹介されています。

あきらかにペットに服を着せることはステイタスシンボルでした。同時に自らの血統のよさをアピールする手段でもありました。犬は、かつてのように用途ではなく血統によって分類され、それにともなって金銭的な価値も上ったと言われています。ここで忘れてはならないことは、ペットとしての犬が商品として市場に出されていたことです。市場価値の高い犬はしばしば盗難の対象になりましたが、商品である以上は流行りすたりもありました。つまり、実際にはペット自身が飼い主のステイタスシンボルとしてアクセサリー化され、飽きれば交換される消耗品にすぎなかったのです。もともと愛玩犬の多くは、人間の手で改良されて生まれ、高度に文明化された室内で生活していました。ペットは自然から無理やり引き離され、秩序と従属の世界に押し込められています。そのような存在のペットに服を着せることは、支配(飼い主)と従属(ペット)の関係、秩序(人間)の無秩序(自然)に対する圧倒的な勝利をビジュアル化することになると言えます。

このような現象は、現代日本のドッグ・ファッションにもそっくりあてはまります。人気ファッション誌の最新号記事を見ると、一流ブランドの高価な犬用コートやキャリアケース、リードなどがふんだんに紹介されています。つまり、現代日本においても高価なペットに高級な服を着せることはステイタスシンボルなのです。ペットに服を着せることは、彼らを人間化するというよりはむしろ、あるいは最後に残っているかもしれない自然の最後の印を隠すことかもしれません。日本でのドッグ・ファッションがほとんど大都市に限られているのも、その点に関連していると思われます」

太田先生は「おもしろい研究でした。 現代のイギリスがペットと人間の理想的な関係を築いていると言われていることを考えますと、このような時期を経て、移り変わる、日本はその途上にあると考えればいいのかもしれません。私としては日本の最新ファッション誌の記事で、“ペットもおしゃれに暮らしたい?”というようにクエスチョンマークがつけられている点に安心しました。編集者も常識は持っているのだな、ということが分かりますからね」と述べられました。

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