Letter from CAIRC
2004.7 Vol.8 No.2

第6回を迎えたCAIRC「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」
研究発表会開催!
多彩な学問分野から、若手研究者が人と動物との関係に迫る!


コンパニオンアニマル リサーチ(略称:CAIRC)は、98年から毎年、研究援助活動としてCAIRC「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究奨学金プログラムを実施しています。今回5件の研究結果発表を行いましたので、ここにご報告いたします。

去る7月2日、第6回CAIRC「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究発表会を東京・千代田区の日本記者クラブで開催いたしました。発表会には研究助成金給付者の張淑鳳さん、花川隆さん、谷内通さん、大谷伸代さん、田中優子さんのほか、第6回選考委員を務めた太田光明麻布大学教授、森裕司東京大学大学院教授、CAIRC会長を務める正田陽一東京大学名誉教授が出席いたしました。

正田陽一CAIRC会長

研究発表に先立って、正田会長がご挨拶をいたしました。
「CAIRC研究奨学金発表会も今年で6回目を迎え、今年度の奨学金給付者を含めて32名の研究をサポートさせていただいております。今回選出された5名の方々は、脳機能を専門とする医師、動物学の専門家、心理学研究者、老年看護学の専門家など、日頃それぞれの分野で興味深いお仕事をされておられますが、各自の専門領域の中で『人間とコンパニオンアニマルとの関係』に焦点を当てて研究を進められてこられました。一つひとつの研究が意欲あふれる内容となっています。私も毎年新たな勉強をさせていただけるので、研究発表会を大変楽しみにしております。
今年は、3年に一度この分野の国際会議であるIAHAIO* 国際大会が10月に英国のグラスゴー市で開催されますが、本日の発表者の中から大谷伸代さんがこの大会の参加・発表を予定されています。私たちが欧米の研究成果を学ぶだけではなく、日本から新しい研究成果を世界へ向けて発信できることには大きな意義があります。若い優れた研究者の皆さんの手によって、『人間とコンパニオンアニマルとの関係学』が多方面から研究され、着実に研究成果を積み重ねていただいていることを、喜ばしく思います」。

*IAHAIO(International Association of Human-Animal Interaction Organizationsの略で、人間と動物の関係に関する国際組織。コンパニオンアニマル リサーチはIAHAIOの参与会員です)

第6回目となった今回の研究発表では、ペットがもたらす社会的サポートについての比較調査、コンパニオンアニマルへの親愛の情を司る脳の部位をMRIによって明らかにする研究、動物に関する知識の獲得が人間の態度に与える影響に関する検討、効率的な犬のしつけを行うためのトレーニング方法の確立をめざすための研究、高齢者の自尊心を維持させるために果たすコンパニオンアニマルの役割についての提言など、バラエティに富んだ研究テーマが発表されました。いずれも、今後さらに研究を継続・発展させることでより大きな成果が期待できるテーマであり、研究者の方々からは次なるチャレンジへの熱意が感じられました。




人が人から受けるサポートと、ペットから受けるサポートとの
同異点を、社会心理学的見地から比較
研究テーマ:「ペットがもたらす社会的サポートと孤独感・安堵感・健康への効果」
名古屋大学大学院 教育発達科学研究科
心理発達科学専攻 博士前期課程修了 張 淑鳳(ちょうしゅくほう)
張 淑鳳

ペットが人間にもたらす心身の効果については、ストレス緩衝の効果、生理的健康指数への効果、心臓疾患への効果、精神疾患への効果、高齢者の健康への効果、心理情緒的な効果、ペットの社会的ネットワークへの内在化による影響、飼い主への特性やイメージへの影響など、これまでに多くの研究が実施されています。しかし、その多くはペットから受ける社会的サポートを単純な測定方法によって導き出しているものです。一方、人間がお互いに与える社会的サポートの研究では、情報的サポート、情緒的サポート、道具的サポート、評価的サポートなど、機能によって分化されるなど、より複雑な手法が用いられています。そこで張さんは、こうした既存の社会的サポート理論を参照し、ペットからの社会的サポートと人間からの社会的サポートとの同異点や、ストレス緩衝効果、精神衛生上の効果などの比較を行いました。

「人と違い、ペットとは会話ができません。それにも関わらず、ペットをわが子のように愛している人が増えています。ペットと会話をしたとしても人からの一方通行のように思えますが、実際のところ飼い主はペットからどのような心理的サポートを受けているのか、またそれは人間から受ける心理的サポートとどう違うのか、を明らかにしたいと考えました」と張さん。

調査は、質問紙によって大学生とその家族(主婦、定年退職者、その他)436人を対象に行われました。張さんが用いた尺度は、(1)ペットから受ける安堵感尺度(13項目) (2)ソーシャル・サポート尺度(23項目) (3)孤独感尺度(20項目) (4)精神健康調査票(7項目)の4尺度。質問項目は全部で63と多岐にわたっています。ソーシャル・サポート尺度については、「ペットから受けるサポート」と「最も頼りにしている人から受けるサポート」およびそれらの「サポートに対する欲求」に分けることで、人とペットからそれぞれ受けるサポートの比較検討がなされました。

「人間から受ける社会的サポートとペットから受ける社会的サポートとの比較では、人間から受けるサポートの方がより必要である可能性が高いという結果でした。しかしながら、両者を比較した23項目のうち22項目については、サポート欲求の程度に差こそあれ大きな相違は認められませんでした。たとえば『私の話を真剣に聞いてくれる』とか『私の幸福について気にかけてくれる』などという項目でも、ペットからのサポートを受けている様子が窺われたのです。唯一大きな相違が見られた因子は、『一緒に運動する』という項目です。ペットとは一緒に散歩や遊びをするが、人間と一緒に運動することはあまりないというわけです。多くの研究でペットが人間の健康に対して好ましい効果をもたらすことが示唆されていますが、それを裏付ける結果が得られました。
またペット所有者の孤独感は非所有者よりも低く、ペットから受ける安堵感をより高く評価していることが判明しました。さらに詳しく職業別の分析を行ってみると、定年退職者は、他の層よりもより多くのサポートをペットから受けていることがわかりました。高齢者は若者と比べて生活範囲も狭く、人間からの社会的サポートが欠如している可能性があると考えられます。したがってペットを飼うことにより、孤独感や退屈が減り、ライフスタイルが変わるなど、心身的なサポートの影響が強いのではないかと考えています」。

太田先生は、「『人間と動物の関係学』において、動物がどの程度人の代わりになり得るか、というテーマは大きな問題です。その意味において張さんの研究は古典的かつ重要な研究です。動物が容易に人の代わりになり得るとは思いませんが、健康促進の意味ではペットの方が周囲の人よりも役に立っているという話は、示唆に富んでいました。ぜひもう一段階、研究を進めてみてください」と講評されました。



犬と人間の顔認知比較から、
“親愛の情”を司る脳活動の一端を探る
研究テーマ:「人間とコンパニオンアニマルの関係」に伴う
認知情動機構の脳内表現:磁気共鳴機能画像を用いた研究
京都大学大学院医学研究科附属高次脳機能総合研究センター助手
花川 隆(はなかわたかし)
花川 隆

人はなぜ、コンパニオンアニマルに愛情を注げるのでしょうか。親愛の情を感じるメカニズムとはどのようなものなのでしょう? その問いに対する答えは未だ解明されていません。京都大学大学院で脳機能の研究に携わっている花川さんは、愛情が生まれる一つの要因として、相手の顔を見たときに脳で行われる「顔認知」の神経機構に着目しました。

「最近、磁気共鳴機能画像(functional magnetic resonance imaging : fMRI)などによる脳研究の進歩により、複雑な心の働きにも対応する脳活動が実存することがわかってきました。たとえば、人間の顔認知には後部側頭葉下面に存在する紡錘状回の一部の活動が関わっていることが、多くの研究によって明らかにされています。そこで本研究では、まず一点目として、飼い主が犬の顔認知をする神経システムは人の顔認知を行うそれと共通しているのか、次に、親しみのある顔、単に知っている顔、まったく知らない顔の差は顔認知の脳活動にどのような影響を与えるのか、の2点についてfMRIを用いて明らかにすることを目的としました」(花川さん)。

実験は、脳の画像を高解像度で撮影できるMRI装置の中で、被験者11名に8種類の写真を提示して既知・未知を答えてもらい、その際の局所神経活動に伴って生じる酸素代謝や脳血流の変化を計測するもの。写真は、(1)被験者の家族 (2)あらかじめ覚えてもらった人 (3)知らない人 (4)被験者の飼い犬 (5)あらかじめ覚えてもらった犬 (6)知らない犬 (7)あらかじめ覚えてもらったモザイク画像 (8)知らないモザイク画像が用いられました。

花川さんは結果について、現時点では被験者の数が十分とは言えないため、あくまで予備的なものに過ぎないと断った上で、こう話します。
「人の顔認知の場合も犬の顔認知の場合も、紡錘状回の一部(ブロードマン37野)で脳の活動が認められました。部位としては犬と人に明らかな差はなく、共通の神経基盤が使用されているものと考えられます。また、親しい人の顔写真、飼い犬の顔写真を見たときは共に前頭前野眼窩面・扁桃体で反応が認められました。この部分の活動が、親愛の情と関連する可能性について今後も検討を続けたいと思います」。
親愛の情を司る神経機構を今後さらに解明していくためには、実験データ数を増やすとともに、自律神経反応の研究や主観的な気持ちに関する調査も並行して行い、総合的に検討していくことが重要だと花川さんは考えています。

森先生は、『人間とコンパニオンアニマルの関係学』において脳科学という新しい切り口の研究に専門家が先鞭をつけたことを評価するとともに、今後へのさらなる期待感を込めます。「fMRIをはじめとする画像診断技術の進展によって非侵襲的に脳機能の研究を行うことができるようになったことは、動物とのふれあいに際して起こる脳活動を解明する上で大いに役立つものです。また花川さんが今回の実験で反応を認めた部位は、動物の脳にも共通して存在しており、人と動物の間で交わされるコミュニケーションの情動的基盤を垣間見たという印象を持ちました」。



人が動物を評価する背景にある
心理についての考察
研究テーマ:動物の心的能力に関する知識の獲得が
動物観の変化に与える影響に関する検討
金沢大学文学部 人間学科講師 谷内 通(たにうちとおる)
谷内 通

谷内さんは学習心理学・比較心理学を専門領域とし、たとえばマウスの行動モデルを研究することで人間の問題行動の修正に役立てようとしたり、動物が持つ知覚や記憶について種ごとに検討を行ったりするなど、普段から動物を使った研究をしています。「私はよく、我々の研究は人々の動物観に対して影響を及ぼしているんだという話をあちらこちらで聞きます。ただそれは"直感的""経験的"に言っているだけで、そのことを実証する研究は過去にはありません。そこで、《研究1》で動物の心的能力に関する知識の獲得が、動物に対する人間の態度や評価に与える影響を明らかにしたいと考えました。また《研究2》では、そもそも人は動物に対してどのような態度・感情を持っているのか基本的な態度を抽出し、態度間の関連も分析していきたいと考えました」と、谷内さんは研究の目的を語ります。

「《研究1》は比較認知科学の講義を受講する大学生を被験者として行いました。受講前に、まず60種の動物について、『知能』『親近性』『意思疎通可能性』『有用性』の4項目の評定を行ってもらいます。そして、チンパンジーの認知発達・視覚認知に関する3日間の集中講義後に2回目の評定を行い、受講に伴う態度の変化を測定しました。また、態度変容の持続性に関して検討を行うため、約半年後にも追跡調査を行いました。
その結果、チンパンジーについては調査4項目のいずれにおいても、1回目に比べ2回目の評定値が大幅に上昇。他の動物でこれほど評定値が変化した動物は認められませんでした。集中講義によって知識を得ることが、その動物に対する態度を特定的に変化させたものと考えられる結果となりました。また半年間の経過によって3回目の調査は2回目よりもすべての項目で評価の低下が認められましたが、『知能』『親近性』『有用性』については1回目よりも高い水準が維持されていました。これらの結果は、知識の獲得によって比較的長期にわたる態度変容が生じることを示唆しています」と谷内さんは分析しています。

「《研究1》では、調査項目のうち『知能』−『意思疎通可能性』の間と、『意思疎通可能性』−『親近性』の間にそれぞれ強い相関が認められました。態度間に因果関係があるとすれば、その因果関係を掘り下げることで、人が動物を評価する背景にある心理がより見えてくるのではないかと考えました。そこで動物に対する基本的態度を抽出したのが《研究2》です。
《研究2》では、まずさまざまな動物に関する態度・感情を示す言葉を列挙しました。その89の言葉から統計的な手法によって重複のない因子に絞込んだところ、『食対象』『不衛生』『親近性』『危険性』『知能』『勤勉性』『保護の必要性』『神秘性』という8つの因子が浮かび上がりました。たとえば親近性を感じる動物や、保護の必要性のある動物は、食対象としては抑制の心理が働くと考えられます。このように8つの因子間にはそれぞれ関連性があるはずです」。

谷内さんは、今後この8つの因子間の関連性を解明していこうとしています。 動物をめぐる人間同士の対立や理解不足は、多々あります。特定の動物の保護の推進と反対、マンションにおけるペット同居の賛否、動物に対する態度の異文化理解…こうした問題も、8つの因子間の因果関係を解明することで、背景にある心理を解き明かし、相互理解の促進につながるのではないかと考えています。

太田先生は、「私の研究室の学生たちが、引きこもりの子どもを外に連れ出すための試みとして、犬と遊ぼうとか馬に乗ろうとかイルカを見に行こうと言って誘い出しているのですが、成功率はそれぞれ2割、3割、5割といったところです。谷内さんの研究発表を聞いて、イルカのビデオを事前に見せてから誘えばもっと成功率が上がるのではないかと、興味を持ちました。そのようにこの研究は、いろいろな応用ができそうです。どのように応用していくのか、谷内さんの今後の研究の展開に期待しています」と講評されました。



犬の効率よいしつけを行うための
トレーニング方法確立へ向けた研究
研究テーマ:神経科学的アプローチによる犬のトレーニング法の確立
高等応用動物研究所 研究員 大谷 伸代(おおたにのぶよ)
大谷 伸代

日本では現在約1114万頭(2003年度ペットフード工業会調べ)の犬が家庭で飼育されていますが、飼育数が年々増加し、人と犬との関係が密になるにつれて、さまざまな問題が浮かび上がっています。なかでも過剰咆哮や攻撃行動など「問題行動」の増加が挙げられ、これが飼育放棄の結果を生み出す場合も多くなっています。また、欧米と比較すると「しつけ」に対する社会認識も日本はまだまだ低いのが現状です。こうした状況を踏まえ、犬の効率的なしつけ方法を確立するための研究を行ったのが大谷さんのグループです。

「生き物の刺激伝達経路は、外界からの刺激情報を受け取った上位中枢から視床下部に指令が伝わり、自律神経系つまり交感・副交感神経を介して生体反応が引き出されます。そこで、正常な生体反応が行われているかどうかを、交感神経活性評価の指標となる尿中カテコールアミン濃度を測定することで明らかにしようと考えました。
実験は、大きく分けて3つ行っています。まず対象とした実験では、しつけに必要な座れ・待て・伏せなどの基本トレーニングの前後に尿を採取し、尿中カテコールアミン濃度のうち、ノルアドレナリン(NA)とアドレナリン(A)濃度の数値を測定しました。結果はトレーニングの前後いずれも、尿中NA濃度とA濃度に一定の相関が見られました。これが正常な反応です。
次に、攻撃行動を起こす個体、過剰咆哮を示す個体とコントロール群それぞれについて、安静時と、時速25キロ前後で20〜30分走る運動負荷後のNA・A濃度を測定しました。するとコントロール群ではやはり安静時も運動負荷後も、一定の相関が見られたのに対し、問題行動を起こす犬の場合は安静時であってもNA濃度が異常に高いなど相関関係が見られず、運動負荷後に対照群で見られた適度な刺激応答性とは明らかに異なっていました」。大谷さんは、問題行動を呈する犬は、刺激に対する交感神経系の一連の応答に何らかの不具合が生じている可能性があると指摘します。

「さらに、以前は問題行動があったものの服従トレーニングを通じてある程度、行動の改善が見られる犬についても調べてみました。すると、安静時には低かった尿中NA・A濃度の相関が、トレーニング後には正常犬に近い値が得られました。このことから、交感神経系の応答不具合による問題行動に関しては、その不具合をもとにもどしてやれば改善の可能性があるのではないかと考えられ、現在さらなる検討を行っているところです」。

効率のよいトレーニング方法や問題行動の早期改善により、まずは家庭犬のしつけレベルを底上げすることが重要だと大谷さんは考えています。また、介助犬などのアシスタントドッグは高度なトレーニングにも適応できる能力を求められますが、基本トレーニングに対する交感神経系の応答を見ることにより、より早い段階でアシスタントドッグとしての適性を見極める選別がある程度推測可能になるとしています。

森先生も、「一人前のアシスタントドッグになるためには厳しいトレーニングが待ち受けており、たとえば盲導犬の卒業率は候補犬の半分にも達しません。資質がないのに候補に上がってしまう犬は気の毒ですし、多大な労力と経費をかけて育成する人間側にとっても非効率的です。その観点から、今回の尿中カテコールアミン濃度測定といった非侵襲的な方法を用いて動物の適正を判定しようという考え方は興味深いアプローチであり、さらに十分なデータが蓄積されれば、補助犬の育成方法を見直すための科学的根拠となるかもしれません」と、期待を述べられました。



高齢者の『自尊心』をコンパニオンアニマルが支える可能性
研究テーマ:高齢者に対する死別経験およびコンパニオン・アニマルの影響
愛知県立看護大学 老年看護学 助手 田中 優子(たなかゆうこ)
田中 優子

高齢期には、配偶者との死別の経験が多くなります。この死別の経験は、抑うつ感、絶望感、孤立感という否定的な感情を引き起こす原因になると言われています。そこで田中さんは、死別の影響が緩和されるために、コンパニオンアニマルが人の肯定的な感情を高められないだろうかと研究に取り組みました。この研究のテーマは、"コンパニオンアニマルの存在は死別経験による肯定的感情の低下をどの程度カバーできるのだろうか?"と掲げられました。

「調査は65〜74歳の高齢者にアンケートを行い、760票の有効回答をもとに分析しました。 まず、配偶者の死別経験が高齢者の日常生活での肯定的な感情に及ぼす影響を調査したところ、肯定的な感情のうち、『有用感』『はりあい感』『自尊感情』の順で3項目が低下していました。特に、死別時期から3年未満の人の場合では、『有用感』『愛情対象の存在』『貢献感』『生きがい感』の順で4項目が低下していました。

次に、コンパニオンアニマルが高齢者の日常生活での肯定的な感情に及ぼす影響を調査したところ、単にペットを飼っているかどうかだけでは統計学的に有意な影響はみられず、コンパニオンアニマルとの"関係性"が重要であることがわかりました。コンパニオンアニマルと質的に強い関係性がある場合は、『愛情対象の存在』『保護対象の存在』『はりあい感』『自尊感情』『有用感』『生きがい感』の順の6項目で肯定的な影響があることがわかりました。

コンパニオンアニマルとの関係性は、『食事や世話の責任性』『ペットと一緒の部屋で過ごす時間』『ペットに対する情緒的愛着』『ペットとの生活による良い面と大変な面の差』の4側面を調査しましたが、その中でも、特に『ペットと一緒の部屋で過ごす時間』が高齢者の肯定的な感情をより高めていたことがわかりました。

老年看護学では『自尊心』を保つためには、『役に立っている』、『自分には価値がある』と高齢者が感じられることだけではなく、『生きるはりあい』や『生きがい』があること、『何か大切なものを守っている感覚』や、『愛情をお互いに注ぎあえるものがある』と感じられることも大切になると考えています。つまり、高齢者にとってコンパニオンアニマルと一緒の部屋で過ごす時間が多くなることは、こういった高齢者の『自尊心』の維持・向上に最も効果が大きいという結果でした。」

このような結果をふまえ、田中さんは「近年、高齢者施設などで動物介在活動が促進されていますが、単発的・イベント的な動物訪問ではその効果が最大限に発揮されているとは言いがたいのではないでしょうか。施設においても、家庭でコンパニオンアニマルを飼育するのと同様の環境づくりを行うことが、高齢者の日常生活感情をポジティブにしていく重要な要素だと考えます」という提言で発表を締めくくりました。

講評で太田先生は、「田中さんが取り上げたテーマは、欧米では長く研究がなされている話題ですが、日本でもこのようなデータが得られたことはすばらしく、大きな前進だと思います。単にそこに動物がいるだけではなく、いかに飼い主が愛着を持つか…コンパニオンアニマルを飼うことの意味を改めて問われた研究成果でした」と述べられました。

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