Letter from CAIRC
2006.2 Vol.10 No.1

第7回 CAIRC 「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」
研究発表会開催!
都市生活や現代社会を反映したテーマに注目が集まる

奨学金助成を受けた4名の研究成果が発表される

コンパニオンアニマル リサーチ(略称:CAIRC)は、98年から毎年、研究援助活動としてCAIRC「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究奨学金プログラムを実施しています。今回4件の研究結果発表を行いましたので、ここにご報告いたします。

去る10月6日(木)、第7回CAIRC「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」研究発表会を東京・千代田区の日本記者クラブで開催いたしました。発表会には研究助成金給付者の深野聡さん、鈴木恭子さん、吉田琢哉さん、吉田太郎さんのほか、第7回選考委員を務めた太田光明麻布大学教授、森裕司東京大学大学院教授、CAIRC会長を務める正田陽一東京大学名誉教授が出席いたしました。

研究発表に先立って、挨拶に立った正田会長は、「今回発表される4名の皆さんは、都市空間での公共的なコンパニオンアニマルとしてのポニーの存在を検討したものから、ペットの迷惑行為や職業性ストレスといった現代の社会背景を色濃く反映させたもの、また小学校における動物介在教育の新しい試みまで、大変ユニークな研究を計画・実施されました。3年に一度開催される、この分野の国際会議“IAHAIO*国際大会”が、次回は2007年秋に東京で開催されます。皆さんにはさらに研究内容を発展・充実させていただき、アジア初となる東京大会で発表していただければと期待しています」と話しています。


正田陽一CAIRC会長


日本で初の『動物介在教育』の試みに大きな関心、より良い人間関係構築に「効果あり」

発表会では出席者から各発表に対する活発な質疑応答が交わされました。特に小学校教員の吉田太郎さんが発表した「小学校における犬を用いた『動物介在教育』(Animal Assisted Education)の試み」は日本で初めての本格的な事例であることから多くの関心が寄せられ、今後こうした取り組みを他の小学校に広めていくための課題などについても議論が行われました。

*IAHAIO(International Association of Human-Animal Interaction Organizationsの略で、人と動物の関係に関する国際組織。コンパニオンアニマル リサーチはIAHAIOの参与会員です)



ポニーが公共のコンパニオンアニマル的な役割を果たす可能性を示唆
研究テーマ:「都市空間におけるポニーとのふれあいが地域にもたらす影響について
〜ポニー(動物)のいる公園の意義と役割を考える〜」
社団法人 東京乗馬倶楽部 ポニー事業部マネージャー、インストラクター
深野 聡(ふかのさとし)
深野 聡

『渋谷区立代々木ポニー公園』は都会の中で大型動物であるポニーと気軽にふれあうことのできる空間として、平成15年に整備されました。区の委託を受けてこの公園の管理・運営を行っているのが、深野さんの所属する東京乗馬倶楽部です。深野さんは、都市空間におけるポニーとのふれあい活動がどのような価値を持つのかを探り、より地域と密着したポニー施設づくりを行うことを目的に、[(1)利用者へのアンケート調査] [(2)来園した子どもの描画の調査] [(3)団体利用機関への意識調査] [(4)他のポニー施設へのアンケート調査]を行いました。

[(1)利用者へのアンケート調査]でわかった利用者像は、その約75%が渋谷区および近隣区の住民であること。代々木ポニー公園を訪れることは、観光やレクリエーションという特別な外出というよりも日常生活の一部であり、それだけにリピート率も高く、ここではポニーとのふれあいが日常的な光景になっていました。来園世帯のペット飼育率が犬の全国飼育率を下回っていることから、都市部の住宅事情等で動物を飼えない家庭にとって、ポニーが公共のコンパニオンアニマル的な役割を担っている可能性が推測されています。

[(2)来園した子どもの描画の調査]は2回行われていますが、初回調査とリピーターの増えた半年後の調査では描かれる絵に明らかな違いが見られました。初回調査では自分と馬を描いた子どものうち「乗る」場面を描いたものが多かったのが、半年後の調査では逆転し、「ニンジンやり」や「ブラッシング」などの世話をする場面が多くなり、またポニー個体の毛色や柄の特徴を表現しているものも増えたのです。深野さんは、自分のお気に入りのポニーに毎日ニンジンをあげる子どもの姿が見られることなども例に挙げ、「ふれあいが増すにつれポニーが擬似コンパニオンアニマル的な役割を果たしている」との報告をしました。

ポニーが公共のコンパニオンアニマルになり得る可能性がある一方で、[(4)他のポニー施設へのアンケート調査]からは、ポニーの問題行動が比較的高い発生率で起きていることも示されました。問題行動の背景には、「大声で騒ぐ」、「ポニーの後ろに回る」など馬にストレスを与えるような来園者の行為があることもわかり、ポニーの習性を事前に学ぶ場の必要性も浮かび上がりました。

ポニーという大柄な動物の場合、グループ活動で餌あげや小屋掃除などの飼育作業を応用することも可能であり、深野さんは情操教育上、多様なふれあいの形を創り出せることにも注目すべきだと考えています。園外保育・校外学習などで代々木ポニー公園を訪れたことのある17の機関を対象とした[(3)団体利用機関への意識調査]では、15の機関がポニーとのふれあい活動を有益だとし、今後は「障害児への対応」を求める声が多く聞かれました。現状では各施設が個別に障害者への対応を行っているに留まっていますが、今後は施設間協力によるスキル向上や、医療・教育・心理の専門家とのネットワークづくりにも取り組む必要があるとしています。

講評にあたった太田教授もこの点に触れ、「動物介在療法や動物介在活動の中でも、馬は大きな効果が得られることから、その有用性が国の内外で評価されています。このことからも、ポニー公園で障害者への対応を充実させていくことには意義があるといえるでしょう」と話されました。

報告を終えた深野さんは、「ポニー公園へのはじめての来園目的は乗馬でも、リピーターとして訪れると活動が餌あげやブラッシングなどへと変化することは、感覚としてはつかんでいました。そのような傾向を実際に利用者の声や子どもたちの絵からデータとして客観的に示せたことは大きな成果です。既存のポニー施設は『乗ること』をメインに考えがちでしたが、それ以外のメニューをいかに用意できるかが課題だということがはっきりしました」と今後の展開への抱負を語りました。




犬猫飼育は企業労働者のストレス対処法となり得るか
研究テーマ:「コンパニオンアニマルの飼育が職業性ストレスとうつ傾向に与える影響」
東京医科歯科大学大学院 保健衛生学研究科 健康教育学 博士課程
鈴木 恭子(すずききょうこ)
鈴木 恭子

近年の日本経済の低迷は、企業で働く人々の心身に少なからず影響を与えています。例えば、20歳代から50歳代における死因は、どの年代でも自殺が1位または2位。さらに、うつ病や神経症など精神疾患による患者数も毎年増加傾向にあり、20歳代、30歳代では他の疾患の受診率より精神疾患による受診率がきわめて高くなっています。自殺を防止する上でも、労働者への精神的なケアが重要な課題となっているといえるでしょう。

産業保健をテーマにさまざまな調査研究を行っている鈴木さんは、企業で働く人の中に「帰宅すると真っ先に飼い犬に話しかけ、ストレスを解消している人」が複数存在することを知り、コンパニオンアニマル飼育が労働者のストレスコーピング(ストレス対処法)として良い影響を与えているのではないかと着目しました。

実際、高齢者においてはコンパニオンアニマル飼育による健康維持、社会活動の維持または向上傾向が示唆されているほか、コンパニオンアニマルの飼育者はストレスに対する良好な適応能力がみられるという報告もあります。さらに、アルツハイマー型痴呆症の家族を介護する男性と40歳未満の女性は、コンパニオンアニマルを飼育している場合に、飼育していない場合より、うつ傾向が低い状態にあるという報告もあります。

そこで鈴木さんは、「コンパニオンアニマル飼育による効果が労働者にも当てはまり、職業性ストレスおよびうつ傾向を改善できるのではないか」と仮定し、ある精密機器メーカー社員約1,300人を対象にコンパニオンアニマル(犬・猫)飼育状況と職業性ストレスおよびうつ傾向の関連調査を実施しました。

調査は、(1)基本属性(年齢・性別・職種)、(2)生活習慣要因、(3)現在の健康観、(4)うつ病のスクリーニングテスト、(5)職業性ストレス尺度、(6)コンパニオンアニマルの飼育状況、の6項目について分析されました。この結果、コンパニオンアニマル飼育者と非飼育者との間で有意な差が出たのは、定期的なスポーツをしている人が飼育者に多かったという点。犬・猫の種類には関係なく、コンパニオンアニマル飼育には散歩を含めた運動を促す効果があることが示唆されました。定期的な運動は生活習慣病の予防に役立ちリフレッシュ効果もあるとされていることから、コンパニオンアニマルの飼育が間接的にうつ病の予防につながる可能性も示唆されると鈴木さんは考えています。

また、コンパニオンアニマル飼育とうつ傾向に関しては、飼育者・非飼育者の間に有意な差は認められませんでした。鈴木さんは「労働者におけるストレスコーピングとして、上司や同僚などによるソーシャルサポートが有効であるとされていますが、それ以外のストレスコーピングの有効性は明らかになっていません。そこでぜひともコンパニオンアニマルという第2のストレスコーピングを示したかったのですが、関連性が検証できず残念です」と語っています。また、「これまでの先行研究で製造職にうつ傾向が多いことが示唆されています。本調査の基本属性では製造職の比重が全体の4割と他の職種に比べて高かったこともあり、本来はうつ傾向である人が改善されているという可能性も否定できません」とも説明しています。

発表後の講評で太田教授は「ポジティブな効果はコンパニオンアニマルに対する飼育者の愛着度に比例するという先行研究があります。従って、どのくらい愛着度があるかにも注目して検討すれば、さらに踏み込んだ考察ができると思います」とアドバイスしました。

鈴木さんは再度、コンパニオンアニマルと職業性ストレスとの関連を調べるためには、うつ傾向の高い労働者を対象にコンパニオンアニマル飼育を勧め、飼育前後の効果測定ができないかとも考えています。



犬の迷惑行為というネガティブ面にスポットを当てた研究
研究テーマ:「ペットによる迷惑行為尺度の作成とペット所有の
有無による迷惑認知の差の検討」
名古屋大学大学院 教育発達科学研究科 博士後期課程
吉田 琢哉(よしだたくや)
吉田 琢哉

大学院で社会心理学を専攻している吉田琢哉さんは、近年社会心理学の分野で取り上げられている『社会的迷惑』についての視点を「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」に持ち込み、ペット飼育のネガティブな影響についての検証を試みました。

「ある世論調査によるとフンの放置=“フン害”を迷惑だと思う人は58%にのぼります。こうしたペットに関する迷惑行為について法の整備や自治体の取り組みはありますが、その効果は定かではなく、結局のところ飼い主のモラルによるものと考えられがちです。しかし、そのモラルが果たして本当にその人自身の迷惑行為抑止につながっているのかをデータとして提示してみたかったのです」と、吉田さんは根底にある問題意識を述べています。

本研究で吉田さんは3つの仮説を立てました。

仮説1. ペットに関して迷惑認知を行う人ほど、迷惑行為は行いにくい。
仮説2. 一般的な規範意識が低い人ほど、ペットによる迷惑行為を行いやすい。
仮説3. ペットを所有している人より、ペットを所有していない人の方が、ペットによる迷惑行為をより迷惑と認知する

これらの仮説を検証する前に、そもそもペットの迷惑の度合いを測る道具が存在していないため、本研究では尺度作りも併せて行われました。その手法はまず予備調査やウェブ上のルール記述から24の迷惑行動をリストアップ、それらを因子分析するというもの。ここから「飼い主から離れることによる迷惑」、「不衛生・しつけ不足による迷惑」、「フン害による迷惑」という因子が抽出されたため、この3つの因子に基づいて、仮説が検証されていきました。

ここでご紹介したい結果は、まず仮説1が支持されなかったという点。これは例えばフンを放置しているのを迷惑だと思ったからといって、必ずしも自分がフンを片付けるわけではないことを意味しています。吉田さんは「つまり、“フンの放置は他者の迷惑になるのでやめましょう”といったメッセージが迷惑行動の抑止に繋がるかという点については疑問が残り、メッセージを工夫する必要があるわけです」と解説します。また仮説3が検証されたことから、ペットの迷惑行為についてはペット所有者の立場からではなく、非所有者の立場で考える必要があることが改めてデータとして示される結果となりました。

本研究について、「最終的にはペット飼育者の迷惑行為抑止を視野に入れたものではありますが、まだまだ基礎的な段階だと認識しています。今後、迷惑行為尺度の項目を精査し、回答者が調査時に意識的に望ましい回答をする“社会的望ましさ”に対する考慮などを加えていきたいと思います」、と吉田さんは話しています。

森教授は、「昨年グラスゴーで開催されたIAHAIO国際大会での提言の中でも、ポジティブ面だけを強調する研究のみでは客観性に欠けることが指摘されはじめています。ペットの有用な効果を享受するためにも、ネガティブ面にきちんと向き合うステップが必要な時期に来ていると感じます。例えば集合住宅でペット飼育をする場合に、問題点をまず顕在化させ、ペット飼育者・非飼育者が問題点を共有して対応にあたることで効果を上げています。このことからも、今後はサンプルサイズを大きくするなどして、このような研究を発展させてほしいと願います」と講評しました。



教育に犬を介在させた一番の効果は、「学校に行くのが楽しくなること」
研究テーマ:「小学校における犬を用いた『動物介在教育』
(Animal Assisted Education)の試み」
学校法人立教女学院 小学校宗教主任
吉田 太郎(よしだたろう)
吉田 太郎

吉田太郎さんが犬を用いた動物介在教育(Animal Assisted Education、以下AAE)を自身が勤める立教女学院小学校に導入したのは2003年度のこと。AAEプログラムの導入にあたっては、教職員や保護者の理解を得るための事前説明を行うとともに、専門家の助言や指導をもとにAAEに適した犬種を選定した上で繁殖元を選び、さらに子犬の社会化トレーニングや獣医師と協力した上で衛生管理を行なうなど、綿密な計画のもとに進めていきました。さらに、子どもたちに対しては犬と人間との関係や犬の性質を教える授業を行い、保健室やスクールカウンセラーとの連携も進めるなどして、2年越しの準備の末にプログラムをスタートさせたのです。

子どもたちと一緒に過ごす仲間として選ばれた犬種は、警察犬や災害救助犬としても活躍するエアデール・テリア。名前はバディ(メス)。バディは毎朝、吉田さんと共に自宅から学校へ出勤。 吉田さんの授業があるときは一緒に教室へ行き、3分間の子どもたちとのふれあいタイムを過ごしたら、残りの授業時間は教室の片隅で寝そべって授業を受けています。吉田さんによると、「子どもたちは、“犬は騒々しいのが嫌い”だと専門家から聞いているため、バディの眠りを邪魔しないようおしゃべりをやめるため、授業中の集中力はかえって高まっています」とのこと。

授業がないときは教員室の一角に作られたバディ専用の部屋で過ごし、休み時間には自由に子どもたちが部屋に遊びに来てリラックスしていくことも。そのほか、運動会の行進、避難訓練、遠足、卒業式の記念撮影など学校行事にも参加し、子どもたちの行事への参加意欲を高めています。また子どもたちが学校教育の一環として地域の老人福祉施設へ訪問ボランティアをする際にもバディは一緒に同行し、子どもとお年寄りとの円滑な交流の手助けをしています。

さまざまな効果が得られた中でも、一番の効果は「子どもたちが学校に行くのが楽しいと思ってもらえていること」と吉田さんは話しています。また、「バディは、コミュニケーションを円滑に進め、よりよい人間関係を構築するための仲介者となっている」とも語っています。

AAEの効果をデータで示すのではなく、敢えて実践記録の積み重ねとして報告した発表スタイルに、森教授も「写真や映像に感動しました、地元の獣医師など専門家集団の協力もすばらしい」とコメント。そして「吉田先生の取り組みを他校に広げるにはさまざまな困難も想定されますが、この成果をわが国に広げていけるといいですね」と期待を寄せました。

AAEプログラムを他校で行う場合、単に犬を学校に置けばいいというものではなく、犬の飼育者(リーダー)を一人決め、安全にかつ効果的に犬をコミュニケーションの仲介者として介在させることが最も重要だと吉田さんは指摘します。また、動物アレルギーの児童への対応や咬傷事故を防ぐための対策、犬の飼育費用についても事前に関係者の理解を得たうえで計画する必要があります。吉田さんはAAEの前例が見つからず試行錯誤の連続だったといいますが、今後は本件が良いモデルケースとなることでしょう。

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