Letter from CAIRC
2007.9 Vol.11 No.1

第9回 CAIRC 「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」
奨学金研究発表会を開催
−人とペットの共生をテーマに若手研究者が発表−

コンパニオンアニマル リサーチ(略称:CAIRC)は、9月12日(火)、第9回CAIRC「人間とコンパニオンアニマルとの関係学」奨学金プログラムの研究奨学生3名による研究発表会を東京千代田区にある砂防会館にて開催しました。

CAIRCでは、活動の一環として、設立以来、「人とコンパニオンアニマルとの関係学」奨学金プログラムを設置し、関連分野で優れた研究を行う多くの若手研究者の支援を行ってきました。9回目を迎える今回の発表会では、昨年の選考会で多数の応募者の中から選ばれた3名が、現代社会の課題に密着した研究の成果を発表し、「人とコンパニオンアニマルとの関係学」に新しい考察を提供しました。

また、今回の研究発表会には、選考委員であり研究発表の講評を務めていただいた、麻布大学獣医学部太田光明教授と東京大学大学院の森裕司教授にもご出席いただくと同時に、CAIRC会長正田陽一東京大学名誉教授とCAIRCの設立母体であるマスターフーズ リミテッド副社長石山恒も出席しました。

正田会長は、開会で次のように挨拶しました。「CAIRCではこれまで40名近い研究者に奨学金を授与してきました。今年の奨学生は3名とも女性であり、この分野でも女性の活躍が目立ってきたことはすばらしいことです。コンパニオンアニマルをめぐる社会状況も変化しており、この学問が担う役割も大きくなってきました。今年も大変興味深く質の高い調査結果が提出され、人とコンパニオンアニマルとの関係学の幅をさらに広げるものとなっています」。

マスターフーズ リミテッドの石山副社長は、「マスターフーズとそのグローバルなグループであるマースは、世界各地で人とペットの共生についての科学的研究を進めてきました。ここ日本では、CAIRCを中心にして、集合住宅でのペットの飼育に関する規約作りや、奨学金を通して学問的な支援を中心に活動を行っています。今後も若い研究者たちと協力しながら、様々な活動を推進していきたいと考えています」と、挨拶をしました。

この発表会には、様々な分野の報道関係者の皆様にも多くご出席いただくことができました。


正田会長、太田教授、森教授
左から正田会長、太田教授、森教授



「戸建住宅における空間構成がペットと飼育者とのコミュニケーションに与える影響」
同志社女子大学生活科学部人間生活学科専任講師
奥田紫乃
奥田 紫乃

同志社女子大学生活科学部人間生活学科の専任講師である奥田さんは、住環境研究を専門としており、建築や住環境の視点から、ペットと共生するために必要な空間構成とそれがペットと飼育者との関係性に変化をもたらすのではないかという仮説から、今回の研究にあたりました。麻布大学獣医学部太田光明教授は、「奥田さんの研究は、建築という新しい視点でこの学問分野を捉えたものだった。ペットと暮らす今後の住宅設計において大いに参考になる研究といえる」と、講評しました。

研究概要
現在、少子高齢化やストレス社会の中で、ペットは家族にとってかけがえのない存在となっているが、ペットと暮らす家庭環境や各家族のライフスタイルやペットとのコミュニケーションのとり方も様々である。そこで、ペットと共生するための快適な空間計画を目標とし、戸建住宅の居住者を対象にペットとの暮らし方に関するアンケート調査を実施した。調査の結果、「居間」を中心にペットと家族のコミュニケーションがとられており、全調査世帯の約2割が、ペットと共生する上で現在の住まいに不満であることが明らかとなった。また、ペットと家族が共に快適に暮らすためには、傷がつきにくい床や壁などの内装や衛生を保つための設備、さらにはペットの動線に配慮した住宅環境と、ペットとのコミュニケーションに配慮した空間が必要であると考える。



「中高年の心身に与える動物の予防医学的効果に関する研究」
麻布大学大学院 獣医学研究科動物応用科学専攻 博士課程
永澤美保
永澤 美保

麻布大学大学院獣医学研究科動物応用科学専攻の永澤美保さんは、日本の社会的課題である高齢化社会において、人とコンパニオンアニマルとの視覚行動の分析を通して、コンパニオンアニマルが中高年の心身の健康に与える効果について解き明かそうとしたものです。東京大学大学院の森教授からは、「永澤さんは、現代の飼い主とペットとの関係性を視覚行動分析で解こうとした。この研究データは、今多くの飼い主とペットの間で構築されつつある関係性についてさらに新しい研究テーマや発見を導くものである」と、講評をいただきました。

研究概要
高齢者の健康に対するコンパニオンアニマルの効果への関心が高まっている。今日の高齢者医療が、「治療」重視から「早期予防」へと変わりつつあるなか、動物介在療法・活動も予防医学的観点からアプローチしていく必要がある。動物との関わりから得られる人の心身への効果は、アタッチメント、ソーシャル・サポート、バイオフィリアの3つの要素から説明されている。なかでもアタッチメントはBowlbyが提唱した母子間の「アタッチメント理論」を人と動物にあてはめた仮説であり、飼い主と犬との関係を考える上で特に重視されている。しかし、人の心身の健康と犬との関係に関する研究は、人からの犬への愛着を指標としたアンケート調査が中心であり、犬が人に対して示すアタッチメント行動から検討されたものはほとんどみられない。そこで、本研究では、犬の人に対する注視行動を中心として、両者の視覚的関係の意義と、それが飼い主の心身の健康に与える影響を明らかにすることを目的とする。



「遺伝的多型情報を基盤とした盲導犬育成率向上に関する研究」
東京大学大学院 農学生命科学研究科獣医学専攻 博士課程
荒田明香
荒田 明香

東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程の荒田明香さんは、慢性的な盲導犬不足への解決策を探るとして、盲導犬育成の効率を高めるために遺伝子レベルでの分析を進める目的で日本盲導犬協会との協力で今回の研究を進めました。麻布大学獣医学部太田光明教授は、「荒田さんは、盲導犬の適性のおける気質分析に行動実験による心拍数評価を用いた点が非常に画期的で評価できる」と、その研究を評価しました。

研究概要
いまだ盲導犬は絶対的不足の状態にある。盲導犬の不適格個体の主な原因は気質上の問題であると言われているが、本研究では、アンケート調査および行動実験の2種類の気質評価系を実施することで、盲導犬適性として“注意力散漫”の程度が低いことが重要であると分かり、行動実験における心拍数は“注意力散漫”と相関する傾向が示された。さらにアンケート調査を指標とした気質関連遺伝子の探索により、2つの遺伝子多型が気質と関連することが示唆された。今後は、客観的な尺度である心拍数を用いた気質評価系の確立により、盲導犬の早期合否予測や繁殖プログラムの構築に貢献することにより、盲導犬育成率向上に役立てることを目指した。

CAIRCは今後も様々な形で、「人とコンパニオンアニマルとの関係学」に関わる研究をサポートしながら、人とコンパニオンアニマルの共生を推進していきます。

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